D'Angelo/Voodoo
2006年 05月 25日

さて、ファンとしては待ちに待っていた2nd"Voodoo"はとてつもない傑作とも言えるし、つきあいきれないとも言える。日によって変わる。こちらの気分や体調で大きく変わる。スピーカーで聴くか、ヘッドフォンで聴くかでも変わる。
誰にも出来ない音ではあるが、それがあざといとも思える瞬間もある。もっと普通にやったって凄いことができるはずだと思う。だが、こうなってしまうのは才能がありすぎるからかとも思う。
それにしても、音はすごくいい。特にベースとバスドラのボトム部分は強力だ。m2以外はすべて生演奏の一発録りで、各プレイヤーのパフォーマンスの高さを感じるにはヘッドフォンで聴く方が演奏のリアルさが増していい。
オープニングの"Playa Playa"からして、前作とは違うのだと主張している。すげぇ妖しげで、ヘビーなスロー・ファンク。ここで、めげる人は多いかも(そういう人がこのアルバムを選ぶわけないか)。でも、これぞブラックネス、次元の違うカッコ良さに、彼の天才を確信する。
たぶんこのアルバムで一番聴きやすいのはプリモ(DJ Premier)と作ったm2"Devil's Pie"だ。二人の天才がガップリ四つに組んで生み出された文句ない傑作で、最高のトラックだ。ただ、プリモ色が強いことが成功の原因で、同じ天才でもプリモの方が業界を生き抜くタフさを持っている証明でもある。一発でつかみのあるグルーヴとフックを持っているし、同時にクラシックとなりうる深みがある。
m3"Left&Right"もHip-Hop色が濃い。二人のゲスト・ラッパーが強烈で、ディアンジェロが控えめすぎるようにも思える。でも、この(1stに通じる)シャイさ加減が彼らしいか。さて、この後はやっかいだから、良い子の音楽ファンはこれ以上聴かないこと(?)。
バンドの演奏はどれも素晴らしくカッコイイのだが、ディアンジェロの多重録音によるボーカルが異様で(前作よりも、だいぶ後ノリで)全体のグルーヴに妙なギャップを生んでいる。最初はこれがすごく不安な気分にさせるし、取っ付きにくい。
が、常習性がすごい。つまり何度も聴きたくなって、そのうちこの声の塊が心地よくなる。m4"The Line"のグルーヴは深い。m5"Send It On"のSweetさは文句なくソウルとして楽しい。m6"Chicken Greece"は、このアルバムのベストにもあげたい最高のファンク。が、その後にm7"One 'Mo Gin"が来て、完全にシビレまくってお手上げ、私はここでピークに達する。それにしても、すごいサウンドじゃないか!で、次曲への短いグルーヴ・チェンジがこれまたクール。
m8"The Root"ではボーカル・ダビングいっぱい!とジャズ・ギターのリバースが(クールに)炸裂で変態色と浮遊感が極まるものの、全体的にはなかなかポップ。
そんなこんなで聴いてくると、m9"Spanish Joint"はいきなりラテン・フュージョン風で、それまでの緊張感がとけてホっとさせるものの、同時に「ん?」と思ってしまう。確かに演奏もいいし、レベルの高い出来なんだけど、ちょっと知性がじゃましているような気がする。
ロバータ・フラックのヒットであるm10"Feel Like Makin' Love"は、ずいぶんドンヨリしてて、あまり楽しめない。別に入れることなかったのでは。まぁ、スライの"Fresh"をねらったのかも?でも、これは長くって退屈。申し訳ないが、この曲は飛ばす。
一回とぎれた緊張感は再び蘇らないのが常。だから、個人的にはm8の後に、m11"Greatdayindamornin' / Booty"に行って欲しかった。だって、このメドレーはやったらカッコイイのだ。せっかくの中毒状態をずーっと続けて欲しかった!
そして、次のプリンスへのオマージュと言われるm12"How Does It Feel"はあまりにもモロなのにスゲェーと思わせる。再び、他との次元の違いに圧倒されるわけね。突然のカット・アウトもいい。
ラストの"Africa"で、m1からのトータル性を示しているようだ。ずっとヴードゥーの儀式をやってトランスしてた聴き手を、じょじょに夢から目覚めさせるよう。それにしても美しいエンディング曲じゃないか。最後にジミ・ヘン風のリバースが亡霊のように聴こえるよ。
彼にしか作れない作品だと認めるし、彼は本当の天才だと信じる。でも、何から何まで大絶賛ってことにはならない。それじゃ、贔屓の引き倒しになりかねない。別格の大傑作扱いのこのアルバムでさえ、彼にとってはピークではないと感じる。だから、新作をずっと待っているのに。