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ジョン・レノン・スーパーライヴ2013の詳細(5)

詳細(4)からの続き。

 元ちとせ/Tomorrow Never Knows~She Said She Said
 
 2002年にメジャーデビューした元ちとせさんは、その大ヒット曲"ワダツミの木"で、日本のポップ・ミュージック界に大きな衝撃を与えた人。今回初めて共演できて、大変光栄に思った。

 リハーサルの段階でも素晴らしい歌声を聴かせてくれたが、本番ではその何倍もの広がりと深さを持った歌に、すっかり感動してしまった。とかく、彼女の独特な歌い回しや「こぶし」は、安易にワールドミュージック的な扱いにされてしまいがちだが、今回のようにジョン・レノンという枠の中に入ると、彼女本来のスケールの大きさがより際立って見えてくるようだったし、ある意味、ジョンの曲が持つ、国籍や民族を越えた普遍性をも強く感じさせてくれたように思う。
 
ジョン・レノン・スーパーライヴ2013の詳細(5)_e0093608_346261.jpg とは言え、今回選ばれた曲は、実は一筋縄ではいかない2曲で、共に66年リリースされた「Revolver」に収録されたサイケデリック・ナンバーであった。

 "Tomorrow Never Knows"は、リボルバー・セッションの最初に録音された曲で、まさにアルバム全体を象徴する楽曲であったに違いない。全部で16種類あるというテープ・ループが使われ、現代音楽の手法を取り入れたとか、現在のサンプリング&ループの先駆けであるとか、その実験性に注目が集まるものの、まずは何より、そのようなサウンドを呼び起こすような曲を書いたジョンの飛躍に驚くべきだろう。
 で、ジョンのイメージした「ラマ僧のお経の大合唱のようなサウンド」は若きエンジニア、ジョン・エメリックの奮闘もあり実現した。
 
 方や、もう1曲の"She Said She Said"は、リボルバー・セッションで最後に録音された曲で、ドラッグ・ソングの代表格だ。歌詞の冒頭「She said I know what it's like to be dead.(彼女は言った、私は死とはどんなものか知っている、と) 」は、ピーター・フォンダ宅にてLSDでトリップ中に気を失って倒れ、気がついた時に、ピーターから言われた事だとのこと。それに対するジョンの解答は「(彼女は僕を)この世に生まれてきてないような気分にさせる」、つまり「そんなことは知りたくない」である。本来は「He said」だったものを女性に置き換えて、露骨なドラッグ体験をぼやかしたのだろう。

 さて今回、「悟り」のような"Tomorrow..."と「死」について言及した"She Said"をメドレーにするという大胆なアイデアで、元さんは歌う事になった。
 これを具体化したのは、彼女のサウンド・プロデューサーである間宮工さんで、彼がアレンジして作ってくれたデモをベースにリハーサルを行った。間宮さんにもアコースティック・ギターで参加してもらったので、スムースにリハは進み、その仕上がりも良かった。

 シンセ・パッドにアコギのアルペジオ、エレキ・ギターによる鳥の声で始まる"Tomorrow"は、トリップして幻覚を見ているような感じであり、オリジナルの1コード的なニュアンスではなく、流れのあるコードチェンジも効果的だったし、元さんの音世界になっていた。
 そして、突然のディストーション・ギターによる"She Said"のリフは、臨死体験からの復帰のようだ。ここからは、リズム隊も加わって気持ちよくロックさせてもらった。
 エンディングに向かっては"She Said"のバッキングに、"Tomorrow"のメロをかぶせて、2曲は合体したのである。

 常に過激な実験性ばかりがやけに強調されている「Revolver」は、正直、60年代と違って、その衝撃度は現代においてかなり薄らいでおり、もはやそういうことよりも、一つ一つの曲が作品としてどうなのか、って捉えるようになったと思う。
 そういう意味でも、今回の元さんと間宮さんとのセッションは、オーガニック時代のビートルズ解釈だったと言えるかもしれない。


詳細(6)に続く。
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by harukko45 | 2013-12-18 23:43 | 音楽の仕事 | Comments(0)

おやじミュージシャン和田春彦の日記でごじゃる


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