また更新が滞っておりましたが、9月末から約一ヶ月間、CD音源から譜面を起こすことばっかやってた気がする。耳も疲れるが、何て言っても音符書きすぎて、手の感覚が変になった。
 なんだけど、楽器弾いたりすると、元に戻ったりする。たぶん、固まっていた筋肉が、運動(?)してほぐれてくるんかな。

 さて、10月10日はサカイレイコさんとの南青山マンダラでのライブ。このところ年2回ペースで定着してきたが、今年は春に出来なかったので、バンドとしては約1年ぶりの集合だった。だが、かなり気心しれてる現メンバーは、短いリハでも飲み込み早く、実にありがたい。久々ではあったが、レイコさん独特な世界に、こちらも気持ちよく浸って、実に刺激的な時間を共有できた。

 特にエディット・ピアフの「オートバイの男(L’homme à la moto)」にまずやられた。この曲は、1955年に有名ソングライター・コンビ&プロデューサーである、ジェフ・リーバー&マイク・ストーラーがThe Cheersというグループに書いた「Black Denim Trousers and Motorcycle Boots」のカヴァーなのだが、確かに全米6位になったヒット曲とは言え、ピアフがこれを面白いとしたことが、実に興味深い。そして、The Cheersの青春ミュージカル風ロックンロールをぶっ飛ばす「パンク・フレンチ」歌曲となって生まれ変わったのが、衝撃的。





 基本のアレンジは同じだが、聴き終わった印象が全く違う。で、特にブラスの過激なアレンジが面白く、これは出来る限り再現したいと思った。私のような世代には、クレージー・キャッツの名曲の数々を作った萩原哲晶さんのアレンジを思い起こさせる。実を言うと、The Cheersバージョンの方がクレージーっぽいし、豪華で映画じみてる。それに比べて、ピアフ版はもう少しシンプルなんだけど、ピアフの歌のエネルギーがすごくって、どんどん緊迫感が高まってくるのが、たまらん。
 とにかく、スピード狂のオートバイの男が、機関車に突っ込んで死ぬ、って話。それがたった2分弱で語られるわけだが、ピアフの強烈なフランス語に圧倒されて、ドキドキが止まらない。

 そして、我らがレイコ嬢もヘンな日本語訳詞を付けずに、いつものように原語での熱唱。もちろん、歌う前に内容の説明はあったものの、この曲の核心を伝えるには、フランス語でなければという彼女の考えは正しい。それこそが、リスペクトというものだろう。

 もう1曲、セルジュ・ゲンスブールの1958年デビュー曲である「Le Poinçonneur des Lilas(リラの門の切符切り)」にもしびれた。ゲンズブールは、シャンソン以外のポップス・ファンにも近年信奉者の多いアーティストだが、彼の作ったものはどれもこれも一筋縄ではいかないものばかり。地下鉄の改札係の鬱屈した気持ちを歌ったこの曲は、暗い地下から逃げて広い世界に出たいという着想に基づいているそうだが、歌詞の中で何度も繰り返される「trous(穴)」という言葉が、何とも意味深。彼のことだから、もちろん性的な気分を煽るようでもある。
 そして、音も常に刺激的で聴き手を煽り続ける。かなり、シビレルね。こちらも、バリトン・サックスにフルート、オーボエといった管楽器の扱いがクールだし、ピアノの過激な演奏もサイコーなのだ。というわけで、原理主義者とまではいかないものの、かっこいいものは出来るだけ再現したい私としては、譜面にするだけで楽しかったわけ。



 もちろん、ピアフ曲の王道とも言える「群衆」「パダン・パダン」は、何度やっても感動させられるから、レイコさんのパフォーマンスは本当に素晴らしい。また、彼女が最も力を入れる日本語によるオリジナル曲も、毎回新曲を加えて、ずいぶんと数も増えたし、内容もますます充実してきたと思う。そしてそして、バンドによるステージに、ファンの皆さんが熱く応えてくれるのが、本当にありがたかったし、コツコツと続けてきたことが無駄じゃなかったと、つくづく思うのでありました。
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by harukko45 | 2012-10-23 23:06 | 音楽の仕事

e0093608_162038.jpg 昨年公開されていたエディット・ピアフの伝記映画だが、映画館では見る機会がなく、WOWOWで放送されたものの録画で、これまたなかなか時間が取れずに放置してあったのを、ようやく見る事ができたのでした。

 さて、で、感想は。

 正直、がっかりした。そして、思うのは音楽家、芸術家、ポップ・スター、ミュージシャン等の伝記、歴史ものは映画としてはかなりむずかしい題材だとあらためて思った。
 主演のマリオン・コティヤールは素晴らしいと思ったし、過去のドキュメンタリー等で見られるピアフの感じにそっくりだったし、まさになりきっていたと感じた。だから、アカデミー主演女優賞も納得だ。
 が、肝心のピアフは何だったのか。見終わっての印象では、酒とモルヒネ依存からくる精神不安定の破滅型人生ばかりが残る。

 ただ、前半はいい。幼少期の生い立ち、過酷な貧乏生活からルイ・ルプレーに見いだされて、じょじょにその才能が認められていくあたりは、実にワクワクさせられたし、そのルプレーが暗殺されてしまい、彼女が「死神」扱いされるくだりも、その後の人生を暗示するかのようだし、偉大なアーティストに必ず存在する大きな暗闇を浮き彫りにさせていたと思った。

 だが、問題は彼女の音楽がどれほど素晴らしいのか、という部分がその後全く薄れてしまうことだ。個人的に最も感動したのはやはり前半部分で、大道芸人の父のもとでストリートに立っているとき、客に催促されて思わず歌った"ラ・マルセイエーズ"だ。
 その後、フランスを代表する歌手として大いなる名声を得てからは、音楽よりも悲劇の人生の描写に終始してしまい、そのあまりにも長い「歌わない時」のピアフを見続けるのは大変辛かった。

 確かに、伝記映画だから、そのように彼女の人生をリアルに描き出していくのも当然だし、このような悲劇的な部分を知ることで、より感情移入できる人々もいるだろう。しかしながら、私にとって一番大事なのは、偉大なるピアフの歌であり、素晴らしい楽曲の数々なのだ。
 ひょっとしたら、この映画の制作者達は「ピアフの音楽の偉大さはすでに一般に熟知されている」という前提の下にこの脚本を作り上げたのかもしれない。仮にそうだとしても、やはりどう考えても音楽が足りない。"モン・デュー"も"パダン"も"群衆"も"アコーディオン弾き"も断片だけで、ちゃんと聞けないなんて!

 逆に言えば我々観客は、とんでもない天才には悲惨な人生がつきものなのは重々承知だ。にもかかわらず、そのような悲劇を乗り越えて、圧倒的な力で人々に喜びと感動を与えてくれるのが、彼らの音楽なのだ。
 つまり、このような酷い状況にあっても、生み出された音楽はこのように素晴らしいものだ、というのが見たかった。

 そういう意味においては、ストーリーとしては単純で、可もなく不可もなくではあったがジョニー・キャッシュの伝記映画"ウォーク・オン・ザ・ライン"の方が、少なくともキャッシュの音楽に浸る喜びがあった。

 とは言え、これでピアフの音楽に傷がつくものではない。今は、CDで聞かれる彼女の歌以外は全てミステリーであってもかまわないと感じている。
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by harukko45 | 2008-10-14 16:28 | 映画・TV

Edith Piafを映像で

 YouTubeって何だかかんだ言っても楽しいし、ありがたい。

e0093608_16272161.jpg エディット・ピアフのライブ映像もたくさんあって、どれも素晴らしい。DVDにもなっているやつなんだろうな。
 私がYouTubeで見ていた映像の元はたぶん"コンサート&ドキュメンタリー"として発売されているDVDに収録されているようだ。
 で、特にお気に入りは、

"群衆/La Foule"(63年のオリンピア劇場か?)
"アコーディオン弾き/L'Accordeoniste(54年)
"私の神様/Mon Dieu(61年)
"パダン・パダン/Padam, Padam(50年代のTVか)
"かわいそうなジャン/La Goualante du Pauvre Jean(54年ものは勢いがすごいね。でも、60年代の死期が近いものには特別な深みがある)

 どれも魅入ってしまう、今日この頃でした。
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by harukko45 | 2008-02-09 14:05 | 聴いて書く

 サカイレイコさんのマンダラ・ライブについて3回目とはね。曲について、いろいろ書き始めると止まりません。なので、もう少しシャンソン、エディット・ピアフにおつきあいを。

 2部の最後に2曲続けましたが、その一つは"私の神様/Mon Dieu"。1960年の作でピアフにとっては死がせまりつつある時期のもので、まさにそれを暗示するかのように、残された時間への激しい思いを感じさせる詞であり、素晴らしい歌唱です。特に「もし私が間違っているとしても、少し時間をください。もし私が間違っているとしても、しばらく時間をください。」という最後の部分など、やはり心が痛みます。
 しかし、シャルル・デュモンによるメロディは全体にちょっと甘めな感じがするし、オケのアレンジもかなり「コテコテ」でいま一つ共感できない部分が正直ありました。
 また、前半3拍子で進む曲が2コーラス目でいきなり4拍子のハネ気味のノリに変わるところは、あまりにも気分が変わってしまう感じでむずかしかった。
 そして、ピアニストのプレイも「それっぽすぎる」感じではありましたが、かなり上手だったので、今回はずいぶん参考にさせてもらったのでした。

 なので、思い入れが深かったレイコさんの歌に、私としてはあまりうまく伴奏できていなかったかも、と反省しています。もうちょっと良くやれたのではないか、との後悔も。
 そこで翌日、ピアフのライブ映像として残っているこの曲をYouTubeでチェックしたところ、その時のピアニストは全く違うアプローチをしており、レコーディング・バージョンよりもキリっとした演奏が私には厳粛な雰囲気に感じられ、とても好感を持ちました。
 それに、例の4拍子も3連のノリでハネるのでなく、カチッと4つ打ちっぽく弾いているのが、とても凛としていて良かった。全体に甘ったるい部分がなく、とても素晴らしいと感じました。これならば、イントロの静かだが荘厳な響き(この部分は素晴らしいアレンジです)に意味があるし、ある一つの力強い意志を曲に感じる事ができました。と言っても後の祭りで、まだまだ勉強が足りませんでしたが、次回までにはしっかりモノにしておきたいと思います。

 そして本編最後は、私としては「何て素晴らしい曲に出会えた事か!」と深く感動した"群衆/La Foule"です。

 元々はペルーのワルツ曲で、南米公演中に気に入ったピアフがフランスに持ち帰って、詞を新たに書き直させた作品。この詞の内容がまた素敵で、「祭りの中、群衆に押され引きずられて、偶然にも押し付けられて一つになった二人。彼女は見知らぬ彼に恋してしまう。そして、一緒にファランドールを踊り、幸せを感じていたのに、群衆に押され引き離され、彼を見失ってしまう。そして、彼には二度と会えなかった」
 そんな刹那の恋を歌うのですが、曲といいアレンジといい、実にドラマティックで美しい仕上がりであり、まさに3分間の映画として完成している傑作であると思います。

 とにかく、イントロからして美しい。このような楽想が浮かぶことに感動します。それに続くメロディとコードの流れ、バッキングのフレージングの美しさ、どれも文句のつけようがありませんが、何と言っても、いわゆる今風に言う「サビ」の部分でのワルツには、身も心も夢中になってしまいました。3拍子という「悪魔のビート」によって毒を盛られた気分で、アドレナリンが頭の中で出過ぎて、爆発してしまったかのようでした。
 私はこの曲のあっちもこっちもどこもかしこも、全てが好きであり、1小節1小節にいちいち感動してしまいます。なので、本番での演奏が、どういうことになったのかは今はあまり思い出せません。とにかく、最後まで演奏できて大きな拍手をもらえた事、久しぶりにとことん音楽にのめり込めた気がして、心の底からすごくうれしかったという事、です。
 それだけで、レイコさんには感謝です。彼女がピアフに負けない素晴らしい歌と強いオーラを発していなくては、いくら曲が素晴らしくても、こんな大きな喜びは得られていなかったでしょう。

 その後のアンコールでは、おなじみの"愛の讃歌/Hymne À L'amour"とこれまた大好きな"パダン・パダン/Padam...Padam"をやりました。これらについては、私のような新米シャンソン・ファンが、あえて語ることはないでしょう。

 さて、何とか私初めての「新春シャンソン・ショー」は無事に終える事が出来ましたが、もろもろの反省点をしっかり認識して、是非とも次につなげたいと思いますね。
 メイン・アクトとして素晴らしいパフォーマンスをしたレイコさんは、今後の飛躍が大いに楽しみですし、一番年長のくせに大ハシャギしていた私によく耐えて、しっかりとした演奏をしてくれていたベースの青柳くん、ギターの有田くんには心から感謝です。皆、私より20歳以上も若いのに、たいしたもんです!
 
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by harukko45 | 2008-02-09 03:11 | 音楽の仕事

前回からの続き...

 2月6日にあったサカイレイコさんのワンマン・ライブ第2部について。

 2部あたまは、レイコ嬢が自らピアノを弾きながら、オリジナル曲を3曲歌いましたが、1部からの良い流れを引き継いで、とてもリラックスしたムードでした。ピアノの演奏も安定してたし、何よりお客さんがとても和んだ感じになりました。特に3曲目にやった可愛らしいラブ・ソング(?)がすごく面白く、ずいぶん受けてましたね。

 さて、そんな雰囲気の中、我々バンド3名がゾロゾロと登場。この後は彼女の得意曲であり、クラシック・シャンソンの超名曲、ピアフの代表作が目白押しとなりました。

 まずは"アコーディオン弾き/L'accordeoniste"。素晴らしい曲です。1939年の作品でミッシェル・エメール作詞・作曲。場末のダンスホールのアコーディオン弾きに恋をした街の女の歌ってことなんですが、詞の内容が映画のようにドラマチックで、3コーラスごとに違った感情が盛り込まれているんですね。
 とっても美しいイントロに続いてのクープレは、すごく重い響きでこの恋の物語が語られていくわけですが、ここのピアノの低音の流れがかっこいいのでした。マイナー・ブルーズなんですが、苦しい思いを託したような半音進行が「くー、たまらん」のです。

 ここだけでも素晴らしいが、その後のJava(ジャヴァ)の部分はまさにフランスを感じさせてワクワクします。(ジャヴァは20世紀初頭フランスのダンスで、速いワルツをバル・ミュゼットが伴奏する/酒場のアコーディオン楽団ってとこ?。男女が接近して踊るため正式なダンスホールでは禁止されていたと言う)
 で、このクープレとジャヴァが3回繰り返されるわけですが、恋人のアコーディオン弾きは戦争に行き、そして帰ってこない。でも、彼女はそれでもダンスホールに出掛ける。だが、そこで演奏されているのは違う弾き手によるもの。イントロで奏でられた美しい旋律は、ここでは過激なアッチェルがかけられて、狂ったようなワルツになっています。それに耐えられない彼女の「やめて!そのジャヴァやめて!」で曲は終わるのでした。

 私はこの曲が大好きです。で、この日はとてもうまく出来たと思っていて満足しています。もちろん、もっと良くして行きたいですが、それまでの中では一番良かったと思いました。とにかく、自分が弾き出したイントロがすごく美しく思えたのが、幸せでした。それに、レイコさんはこの手の「ピアフもの」になると、何かが乗り移ったみたいに歌声に凄みを増すのでした。そんな彼女にぐいぐい引っ張られて、最後のアッチェルでは夢中になって弾いていました。

 続く、"ジョニー、お前は天使じゃない/Johnny, Tu N'es Pas Un Ange"。これまたシビレル名曲です。元々はアメリカの偉大なギタリストであるレス・ポールとメリー・フォードの曲ですが、それを気に入ったピアフがカヴァーしたのでした。

 レス・ポールは1940年代後半の時点ですでにオーバーダビングによる楽曲制作をおこなっていた人であり、この曲のオリジナルでもテープの回転を変えてダビングされたギターの高速オブリガードがメリー・フォードの歌のバックを飛び回っているのですが、何とピアフはこのパートをチェンバロで再現している(たぶん、こちらは一発録り)。このチェンバロ奏者がバカテクで、飄々と弾きまくっているのでありました。
 で、今回我々が参考にしたのは、そのピアフ・バージョンをイタリアの名歌手ミルバがカヴァーしたもの。こちらは、レス・ポールの高速フレーズがだいぶ整理され、メロディックなバッキング・フレーズとしてアレンジされていました。このミルバ・バージョンはなかなか仕上がりがよく、気に入りました。それと、何とも漂う「イタリア風」なサウンドが面白かった。私はフェリーニの映画が大好きで、そこでのニーノ・ロータの音楽も大好きなので、これは楽しかった。

 レス・ポールのオリジナルにあるアメリカ的なキラキラした感触から、ピアフによって哀愁と情念を深めたストリート音楽風になり、ミルバにより再びチネチッタ的な豪華でシャレた雰囲気を獲得していたのでした。
 ほんと、いい曲なんです。私はシンセで60年代イタリア映画風のオルガンと、エレピにちょっとだけレス・ポールを意識したギターの音を混ぜた2種類で、ミルバ・バージョンの再現を試みました。弾くのに少々込み入ったフレーズばかりでしたが、練習の成果もあり、かなりうまく行きました。アンコールがあったなら、何度でもやりたかったですけどね。

 ちなみに日本が誇るギターの名人、徳武弘文さんが聞きに来てくれていて、もちろんレス・ポールに関しても、この方ほど精通している人は他にはいないわけですが、終演後にお会いしたら、この曲の演奏をすごくほめてくれて、おまけに「刺激になったよ!」なんて言ってくれました。いやー、ほんまにうれしかったなぁ。

 何と、曲への思いだけで、やったら長くなってしまった。まだ、続くっと...
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by harukko45 | 2008-02-08 01:40 | 音楽の仕事

 昨夜は雪の中、サカイレイコさんのワンマン・ライブで演奏してきました。彼女は前にも書きましたが、現在はシャンソンを中心に歌いながら、自作のオリジナルも同時に披露するという活動を続けていて、いわゆる「シャンソン・パブ」やシャンソン系のライブハウスなどで、ほぼ毎日のように歌っていますね。

 そんなエネルギッシュで、そして実にアーティステックな彼女のワンマン・ライブでありましたが、今回はある意味「パンク・シャンソン?」風な意識でのトライとなりました。それは集まったミュージシャン、私をはじめ、ベースの青柳くん、ギターの有田くんというメンバー3人ともシャンソンの達人というわけでなく、どちらかと言えば別のジャンルの出自であったことが大きい。彼女としては、いつものシャンソンに手慣れたミュージシャンにない「何か」を期待しての挑戦であったのでした。

 というわけですから、私にとっても初めて演奏する曲ばかり。正直、譜面と音資料をもらってチェックしていた時には少々ナーバスな気持ちになりましたが、逆にそのせいもあって曲を把握するためによく練習し、いろいろと準備もすることにもつながったのでした。
 そして昨夜、本番を無事に終え、何ともいえない満足感に浸っている感じであります。やれることは全てやったし、不安になる気持ちも強かったけど、実際のステージではいい緊張感と同時に音楽に入り込んで演奏している自分がいて、すごくうれしい気持ちになりました。

 オープニングの"バラ色の人生/La Vie En Rose"は1946年のエディット・ピアフ作詞、ルイ・グリェーミ作曲で、世界中の歌手にカヴァーされたピアフの代表作。
 オリジナルはスウィング・ジャズのリズムとホーン・アレンジに、ヨーロッパ的ニュアンス濃厚なストリングス(特にVerseの部分)の響きが印象的であり、そのバックに歌うピアフはアメリカの偉大なジャズ歌手をも凌駕しかねない、堂々たる風格。ピッチや感情表現は元よりですが、私としては彼女のグルーヴ感の良さを特に強調したい。
 歌のノリが素晴らしいので、バックの演奏も逆に引き立つ。ミュージシャン的な視点でわかりにくいかもしれませんが、実際のパフォーマンスにおいて「ボーカリストのノリ」はとても重要です。
 昨夜は私のピアノだけでレイコ嬢が歌いました。シンプルにやると、それだけメロディの偉大さがよくわかります。ですから、かなり冷静に集中して弾きましたが、不思議なくらい楽しい気持ちにもなりました。満員のお客さんの暖かさも伝わってきたし、レイコさんの歌が会場に響いていく感じが気持ちよかった。

 続けて"かわいそうなジャン/La Goualante Du Pauvre Jean"もピアフのレパートリー。バンジョーが入ったデキシー風なリズムにアコーディオンの響きが、シャンソンの多国籍的要素を感じさせて面白く、単純なメロディの繰り返しを飽きさせないように、スパイク・ジョーンズの冗談音楽風にいろんな擬音を駆使したオリジナル・アレンジが、これまた良いのです。
 で、今回はシンセでそれっぽい効果をトライしようと思いました。それと、レイ・チャールズの"What'd I Say"のリフをぶち込んでみました。ま、この辺は個人的な趣味ですけど。で、最後はヨーロッパの遊園地や公園なんかで見かける「手回しオルガン」風なサウンドを目指しました。短い曲で、テンポも早くてあっという間でしたが、なかなか楽しめました。
 3曲続きで、レイコさんのオリジナル"けげんなアロマ"は、大胆にも打ち込みのパキパキ・ドラム・ループを組んで、それに合わせてメンバーには演奏してもらいました。最初はちょっと「浮くかも?」の不安があったけど、「そんなの関係ネェ」的勢いでやり倒してしまいました。あえてこじつければ、フランスのクラブ・ミュージックは世界でも高く評価されていますし(?!)。
 ここでは、有田くんのカッティングと青柳くんのウッド・ベースによるファンク・リフがいい効果になってくれましたね。

 4,5曲目はクラシック・シャンソンの有名曲が続きました。"ふたつの愛/J'ai Deux Amours"は、1931年に作曲家ヴィンセント・スコットが当時パリのミュージック・ホールで一世を風靡していたアメリカ黒人歌手ジョセフィン・ベーカーに贈った歌。で、内容は2人の男性を愛する不倫ものではなく、故郷とパリへの愛を歌った内容です。だから、曲自体にブルーズやニューオーリンズ・ジャズ風のムードが満載なのです。ですから、演奏はそちらの要素を強調するように心がけました。いわゆるラウンジ風のジャズにはならないように。
 そこにねちっこいフランス語が絡むのが面白いのではないでしょうか。

 "私の回転木馬/Mon Manège À Moi"は1958年の作品。ジャン・コンスタンタン作詞、ノルベール・グランズベール作曲のピアフ作品。グランズベールは"パダン・パダン"の作曲家でもありますね。この人の曲は非常にヨーロッパ、特に中央ヨーロッパのムードが充満しているとでも言いますか。何とも言えぬ哀愁感と楽しさがないまぜで私をクラっとさせる、歌詞の冒頭の「あなたは私をふらふらにさせる」がまさに曲からあふれてくるのでした。個人的にとても共感できる作曲家です。
 ですから、全くアメリカ的ムードは皆無なのですが、レイコさんはピアフのオリジナルよりも急速なテンポを要求したので、何となくカントリー的なリズム・ニュアンスになりました。あらためて考えてみれば、ポルカのようなヨーロッパのダンス・ミュージックが移民によってアメリカに持ち込まれ、それがアメリカン・ミュージックのある形になっていくわけですから、この曲をカントリー風に捉えるのも悪くないと思いました。

 で、激燃えしました、これは。テンポが早くて、テクニカルに弾かなくてはならない部分があったせいもあるけど、やはり曲が「ふらふらさせる、夢中にさせる」からに他ありません。

 さて、1部の後半はレイコさんのオリジナルを2曲。"僕の心を乱す人"と"欲望とドライブ"、"僕の心.."は有田くんのアコギを中心に、"欲望...”は私のキーボードを中心にやりました。彼女の詞と歌い回しを生かせるように注意しましたが、お互いいい緊張感を保ってできたのではないでしょうか。どうしても、シャンソン有名曲を期待されているお客さんには異質に感じる部分もあるかもしれません。でも、根っこにある曲調は結びついているものがあると思っています。後は表現の仕方をもっと工夫していくことでしょう。

 そして、1部最後は"毛皮のマリー/La Marie-Vison"で、イヴ・モンタンの歌で有名なんでしょうか。これまたデキシー風ですが、途中でルバートでクープレが入ってくるのが、いかにもシャンソン風です。今回は、急速テンポのロック系というレイコさんのアイデアで、ギターはかなり「ガチャガチャ」と弾いてもらってフィーチャアしました。そのカッティングだけ聞くとデビュー当時のザ・フーみたいでしたが、正直、これはオーソドックスなアプローチとロック風なチャレンジが完全には融合できなかったかもしれません。
 こういうのって、クイーンのフレディ・マーキュリーあたりがやりそうでもあるわな。だから、もっと大胆にデフォルメしたアレンジにしても面白かったか? その辺は次回までにアイデアを練っておきましょう。

 さて、長くなったので、つづく...と
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by harukko45 | 2008-02-07 17:10 | 音楽の仕事

 まとめ仕事編で4回目っていうのもやっぱり変ですが、もうしかたないですな。

 で、この9月で指の故障とともに苦しんだのは、ここで書いて行く打込みの仕事であります。正直、音楽を生業とするものとしてはひと月ライブ3本だけでは少々心もとない。なので、家で出来る仕事ということでデモ用のアレンジとオケ作りの依頼をお引き受けしたのでした。
 引き受けたのはそれだけの理由でなく、前々からのお話もあり、個人的にも興味を持ったアーティストだったので、積極的にアプローチしたのでした。

 それは、まだ20代のシャンソン歌手であるサカイレイコさんです。ひょっとしたら現在の日本シャンソン界に詳しい方ならご存知の方もいらっしゃるかもしれませんね。日本におけるシャンソンというと、とてもコアなファンがいて、ある意味アンダーグラウンドでも実に根強い人気を持っているジャンルと言えるでしょう。
 ちまたでは秘かな「シャンソン・ブーム」との噂もありますが、現在公開中のエディット・ピアフの伝記映画へのキャンペーンとしての仕掛けとの話もあり、その実態はいかに。ただ、我々のプロジェクトはそのような流れと関係なく進んでおり、何よりもレイコさんの歌い手としての魅力に興味を持ったからなのでした。

 ただ最初、プロデューサーは彼女の日本語オリジナルとともに、ブルーズ歌手っぽいイメージを模索していたのですが、彼女の本格シャンソン、つまりエディット・ピアフなどのクラシックものを聞いたことにより、方向が一転、まじにシャンソンをやろうとなったのでした。私もライブを観に行きましたが、確かにピアフを歌う彼女がとても新鮮であり、私の好みとしても今さらブルーズというよりも「おフランス」する方が、ずっとワクワクさせられるではないか!と共感してしまったわけです。

 とは言え、シャンソンなる定義は日本独特のものがあります。フランスにおいてはシャンソンとは単に「歌」であって、特別な楽曲やジャンルを指す訳ではないのです。ところが、我が日本においては70年代以前のフランス語曲のみについてだったり、いわゆる越路吹雪さんらが歌われた日本語訳詞のフランス曲によるイメージが強く残っていて、最近のフランスものはシャンソンとは呼ばれていない傾向にあるようです。
 ですから、現代における新しいシャンソン歌手、それもオリジナルを引っさげ、同時にピアフを歌うというのはどういうことになるのか、いろいろ頭を使わなければいかんわけです。
 しかしまぁ、要はたかだか音楽、実際にブワァーっとやって聴き手をねじ伏せてしまえばいいのですから、難しいことやら今後の戦略はプロにお任せして、私は自分なりに面白く感じて良いものに仕上げていけばよろしいのです。

 それで、彼女のオリジナル2曲とピアフの名曲「パダム・パダム」を作ったのでした。このうち、最初にもらったオリジナルは割と短い時間でイメージが浮かんだのですが、実際の作業は指の不自由さと前回までにお伝えした大きなライブの件もあり、なかなかサッサとは進みませんでした。それと、ついつい細かい部分に固執してしまう悪い癖が必ずこういう時には出てくるので、余計な回り道もしてしまうのでした。

 また、ピアフの「パダム...」に関しては、これはもうオリジナルのノルベルト・グランツベルク作品が大変素晴らしく、ピアフの歌もオーケストラによるアレンジも一体化して完成されているので、これを解体するなど、とてもじゃないが冒涜になりかねないようにも思えたのでした。
 なので、基本構造や印象的なフレーズはオリジナルのままにして、サウンド面でのカラーリングの方にこだわってみました。ある意味、最近のオペラの演出の傾向である「18,19世紀の脚本を21世紀の舞台で展開するための現代化」に近い感じです。
 (今調べてみたら、作曲家のグランツベルクはポーランド生まれでオーストリアのヴュルツブルクの音楽学校から同地の合唱指揮者を経て、映画音楽家になっていった人物のようです。ナチの台頭によりパリに逃れ、その後ピアフのマネージャーらに知り合ったようです。ピアフに提供したのは「パダム」とともに「私の回転木馬」が有名です。私がやけに惹かれたのは、彼の生い立ちからくる中央ヨーロッパ的な感触だったのかもしれません。)

 ただ、やればやるほど、聞けば聞く程、深く奥行きのあるピアフの世界にはまってしまう自分がおり、結局はオリジナルと同じになってしまう危険性があって、非常に悩みました。少しでも新しさを付け加えたい、何とかそこが聞こえてこなくてはならんのでした。

 もう1曲のオリジナルはレコーディング3日前に届いて、それからだったので時間がありませんでした。しかし、逆にイメージはすいすいと浮かんでとてもスムースな仕上がりになりました。とは言え、ずっと徹夜での作業でしたが。

 さて、そんなこんなでステージのあった日以外はずっと睡眠不足でコンピューターとにらめっこの「おフランス」な作業で、再び神経症になりそうでしたが、28日にレイコさんが歌を入れてくれて命が吹き込まれたようでした。その出来にはお互いなかなか満足しました。それに次を感じさせました。これで、完成じゃない、まだまだ成長するって予感をスタッフも私も感じたのでした。だから、あんなに頑張ったかいがあったな、と今は喜んでいる次第です。
 これが世の中に日の目を見るのか、皆さんのお耳に達することがあるのかどうかはわからないけど、まずは第一歩を果敢に踏み出したってところです。

 てなわけで、現在の私はまだ耳が「おフランス」しています。だいぶハマっております。何枚かご紹介します。

e0093608_0262624.jpg 昨年発表されたシャルロット・ゲンズブールの新作。ナイジェル・ゴドリッチのプロデュースでフランス・テクノの注目株(?)Airが楽曲提供している。リナンさんはずいぶん前から「良い良い」とおっしゃってましたが、やっと私も理解しました。これは面白い、そして新しいです。

e0093608_0333118.jpg そのシャルロットの父上で、「エロおやじ」の称号もえらくカッコイイ、セルジュ・ゲンズブールのベスト盤。すごいです、このオヤジ。ブットンでます。なるほど、Beckが好きなわけです。でも、Beckにはない本物のエロが存在しています。私もかなりリスペクトです。

e0093608_0385133.jpg そして、何はなくともエディット・ピアフは聞いてみましょう!このように素晴らしい伝説の歌手を聞かないで死んでしまうのはよろしくありません!いろいろCDがあるでしょうが、ベスト盤1枚手元に置いておけばいいのです。左のアルバムは20曲入りでもちろん名作ばかりです。
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by harukko45 | 2007-10-01 00:46 | 音楽の仕事

おやじミュージシャン和田春彦の日記でごじゃる
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