ポントの王ミトリダーテ/ザルツブルグ音楽祭2006

e0093608_5383215.jpg これまでにNHK-BSで放送された、2006年のザルツブルグ音楽祭のオペラの中で一番素晴らしいものだった。これは、2002年のダニエル・ハーディング指揮によるエクサン・プロヴァンスにおける「ドン・ジョバンニ」とともに、モーツァルトが生きてこれを観たら、大喜びして飛び上がったに違いない。

 そもそも、このオペラはモーツァルト14歳(!!)の時の作品で、イタリア・オペラへのデビュー曲とのこと、で、非常に形式的で題材も神話や古代の物語である「オペラ・セリア」という様式(現代人には少々退屈?)でもあるので、これまではほとんど上演されてこなかったと思われる。
 だが、2006年は彼の生誕250年の記念イベントであったために、このような作品に再び光が当てられ、なおかつ素晴らしいパフォーマンスと演出により見事に蘇り、モーツァルトを聴く喜びと、新しい感動を与えてくれたのだった。

 はっきり言って、この年のザルツブルグ音楽祭での「フィガロ」も「ドン・ジョバンニ」も最悪の演出にペースを乱されて、演奏も歌唱もパっとしない出来だった中で、飛び抜けて完成度の高い仕上がりだと感じた。

 まずは、たぶんモーツァルト自身も絶対に想像もつかなかったであろうし、期待もしてなかったであろう、斬新で過激な演出をして、観るものを全く飽きさせなかったギュンター・クレーマー氏を賞賛したい。巨大な鏡をうまく使うなど工夫を凝らしながらも、全体としては音楽をきちっと尊重していて、過多でうるさい部分が一切なかった見事な演出で、先の「フィガロ」「ドン・ジョバンニ」とは雲泥の差であった。

 また、歌手が全員、「完璧」と言っていいほどの出来で、各アリアにはすっかり堪能させられた。それほど有名な人が集まったわけではなかったと思うが、全員が一致団結して素晴らしい歌唱を繰り広げていくうちに、観客もどんどん盛り上がって行くのがよく伝わってきた。

 また、ソプラノに加え、男性陣もテノールとカウンター・テナーという編成だったのが、非常に新鮮で、音楽全体が澄み切っていて、とても明るく響き渡るのが印象的だった。
 もちろん、これはモーツァルトの譜面の凄さ(14歳ですけどね!)ではあるが、この日の歌手達とともにオーケストラ、レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル(ルーヴル宮音楽隊)の演奏が素晴らしかったからに他ならない。そして、全体を引っぱり見事にまとめあげた、指揮者のマルク・ミンコフスキ氏の力量の高さに驚かされた。
 彼が導き出した、インパクト十分で生々しいフォルテ、ビブラートの少ない純粋な響き、そして何と言ってもウキウキするようなノリの良さには何度も感動したし、いわゆる「ドラマ」としてのオペラを越えて、単純に「純音楽」として楽しめたことが、とてもうれしく、大きな満足感を得られたのだった。

 終演後の観客の熱狂ぶりもかなりのものだったが、私も大絶賛のブラボーを心から関係者全員に贈りたい。 

 1962年生まれのパリ人、ミンコフスキ氏はこの年に、同じモーツァルトの40、41番のCDも発売していた。遅ればせながら、これはチェックしなければ。今後も大いに期待したい指揮者であるのは間違いない。
 それにしても、昨年ウィーンでの「イドメネオ」の指揮で感動したベルトラン・ドゥ・ビリー氏、今年のニューイヤーコンサートが素晴らしかった83歳のプレートル氏、皆さんフランス人。
 このところポップスもクラシックもフランスに「くらっ」としている私でありました。
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by harukko45 | 2008-05-05 05:35 | 聴いて書く

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