2007年のMy Best Albums(3)/くるり"ワルツを踊れ Tanz Walzer"

 今年のジョン・レノン・スーパーライヴで、最も心残りというか、悔いを残した事がある。それは、「もうちょっと『くるり』とお話をしておけば、良かったなぁ」という思い。と言っても、一緒にやった曲について、どうのこうのと詰めたかったわけじゃない。そうではなくて、彼等が新作の"ワルツを踊れ Tanz Walzer"をオーストリアのウィーンでレコーディングしていたことや、ボーカルでソング・ライターである岸田さんがクラシックに入り込んで、その流れからウィーンを目指したこと、またミュージック・マガジン誌(2007年1月号)上の2006年「年間ベストアルバム10」で彼がすべてクラシック音楽のアルバムを並べていて、「もう、ロックとかポップスとか聞けなくなりそうです」とコメントしていたこと、なんかを色々と聞いてみたかった。

 私は彼ほどの繊細さや大胆さ、そして何よりアーティストとしての資質を持ち合わせてはいないが、そんな私でも、「もうロックもポップスもつまらん」となって徹頭徹尾、ヨーロッパ・クラシック音楽にはまり込んだ時期があった。それは30代になってからで、その時は「とにかく、圧倒的に能力の高い作曲家が作った素晴らしい曲を、これまた能力の高い演奏家によって聞くことにより、圧倒的に感動したかった」のが理由。ロックやポップスではそういった満足感をいっこうに与えてはくれない気がしたのだった。
 その思いはすぐに叶い、偉大な作曲家達の作品に感動しまくり、91年からはウィーンをたびたび訪れるようになり、街そのものが大好きになってしまった。その後の私は、自分と現在自分が関わる音楽の価値というものを、もう一度確認することも出来たし、自分が音楽をする意義もしっかり把握することができたのだった。

 そんな私の「自分探し」的な経緯でのクラシックとウィーンへの旅とは違い、さすが「くるり」はちゃんと自分達がやるべきこと、進むべき道を理解していて、その答えとしてアルバムを作ってきた。

e0093608_1659456.jpg "ワルツを踊れ Tanz Walzer"は素晴らしい傑作と思う。何回も聞いてしまう。特に2曲目の"ブレーメン"が大好きで、ギター・サウンドにのったオーボエとイングリッシュ・ホルンが最高に郷愁を誘い、夢のような世界が広がっていくようだった。続く"ジュビリー"もストリングスの扱いが秀逸。そういったアレンジ面だけでなく、曲そのものに「あざとさ」がなくて、確かに激しく展開していく部分もあるが、そういったことが極めて自然に流れて行くのが素晴らしい(このあたりが、クラシックの影響か?)。だから、飽きないし疲れない。

 サイケ時代のビートルズ風な"ミリオン・バブルズ・イン・マイ・マインド"も楽しいが、ここでのバンド・サウンドが実にふくよかな響きでミックスされていて、変に背伸びしたような「ガキっぽさ」がない。成熟したサイケ・ポップになっている。それは、続く"アナーキー・イン・ザ・ムジーク"にも言える。こういう曲でストリングスが入ってくると、何か「いかにも頭でっかち」って感じで普通は嫌悪感を抱いてしまうのだが、ここでは逆にギター・トリオのパンク/ニューウェイブ風なアプローチに、いい意味でオブラートを包むような効果になっていた。まるで、ウィーンの生クリーム効果とでも言えるか。

 ギターの弾き語りによる"レンヴェーク・ワルツ"はウィーンの地名がタイトルになっているが、内容は全然違うとてもセンシティブな佳曲。岸田さんのボーカルがいい。
 歌詞の内容から想像もできないような大曲となった"恋人の時計"も愛すべき作品だ。ホーエルマルクト広場のアンカー時計を思い浮かべてしまう。
 他にも"ハム食べたい"はドイツ語タイトルでもろ"Schinken"。本当に「桃色のハム」が食いたくなった。歌詞的にはちょっと意味ありげで、深読みも可能だろうが、とにかくハムとチーズをはさんだゼンメルが今すぐ食いたい!
 ちょっとXTC風な"コンチネンタル"も好きだ。歌詞が意味不明で、タイトルとの関連性もわからんけど。で、後半一番シビれちゃうのが"ハヴェルカ Cafe Hawelka"だ。CDジャケットにウィーンのカフェの名店「ハヴェルカ」でくつろぐメンバーが写っているのだから、そこから何らかのヒントを得た曲なのだろうが、どうしてこうなったのかマリアッチ風、それともポルカなのか、とにかく笑える。歌詞がまたいいね。「2人を包み込むようなコーヒーの泡のミルヒ(Milch=Milk)」とはねぇ。

 アルバムの最後になってじょじょにバンドのみのサウンドになっていくのは、ウィーンから日本への帰国を意味しているのだろうか、バンドだけの曲になるとすごく日本を感じるのも面白い。ミックスを担当したフランス人のStephan "ALF " Briatの仕事もとても光ると思った。彼はAirなども手がけているプロデューサーだが、ここでの何とも暖かくて豊かな音の仕上がりと、ハーフインチアナログマスターのサウンドにこだわったと言うマスタリングも素晴らしいと思う。久々に長く聞いていくであろうアルバムに出会ったと思う。
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by harukko45 | 2007-12-24 17:51 | 聴いて書く

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