ジョン・レノン・スーパーライヴ2007の詳細(6)

 詳細(5)からの続き...

 いよいよ、コンサートも終盤。4人の強者、最後は吉井和哉さんだ。

 吉井さんは、普段はいたって気さくな方なのだが、リハーサルでも本番でも、いったん音が始まれば、ガラっとかわって、ピリっとした緊張感が漂う。いつもは仲がいいらしい奥田さんが、常にリラックスしたムードなのに比べて、全く好対照の2人である。

 その吉井さんの1曲目は"Yellow Submarine"に収録された"Hey Bulldog"、2曲目は"Double Fantasy"から吉井さんお気に入りの"I'm Losing You"を2曲続けてやった。
 実はこの順番、当初は逆だった。だが、ご本人から本番当日、変更したいとの要望があった。正直、こちらとしては面食らった。どちらかと言えば、"I'm Losing You"から始めてもらった方が、我々は演奏しやすいし、その流れに慣れていたからだ。
 それと、3曲目にやるスロー・バージョン"Help!"をより効果的にするために、その前に"Hey Bulldog"で爆発して一度出し切ってしまおう、とバンド内では話していた。

 だが、吉井さんとしては、自分のコーナーの始まりをより印象づけたかったのかもしれない。今となっては、どちらが良かったかはわからないが、こういうことはアーティスト側のある種の「直感」を信じた方がいい場合が多い。それに、最終的にはメインにあくまでついて行くのがバンドの使命ってもんだ。

e0093608_11404781.jpg さて、その"Hey Bulldog"。タイトルからして、曲調からして、吉井さんにピッタリではないか。何とも毒や皮肉を含んだようなその内容は、それ自体ジョン・レノンという人のもう一つの側面を見事に表しているし、吉井さんの芸術性・音楽性にも通じるものだと思う。
 私はこの選曲を聞いて、思わずニヤっとしてしまい、絶対に「キマる」と確信したのだった。

 まずは、全体に大活躍のピアノのイントロからしておぞましい。コンプレッサーでひどくつぶれた音で印象的なリフが演奏される。で、歌のバックでもピアノが右手で8分打ちしながら、低音をコードの1-5、1-5とストライド奏法のように弾いているのだが、ベースはそれを無視するかのように高いポジションで自由に弾いている。これが、変!
 一応サビのような部分(厳密にはサビらしいサビはないが)「You can talk to me.」のコードの流れは、まるでサスペンス映画かスパイ映画のバックグラウンドのような響きで上昇して行き、そこから一気にイントロで提示されたリフに突入するのが、たまらなくカッコいいのだ。
 私にはこの辺の動きが、その後登場するキング・クリムゾンのサウンドのようにも感じられたので、思いっきり強調して、オリジナルには入っていないゾリゾリしたストリングスも加えてしまった。
 そして、本番では名越君が過激なトーンで見事に再現してくれたが、ジョージの作った間奏のギターソロも妙竹林だ。しかし、これがどうにも耳に残って離れない(ホーケヒキョ、キャララララってやつです)。

 歌詞だって、何が何だかの典型で、おふざけとも言えるし、世の中への風刺ともとれる。それに元々は"Hey Bullfrog"(ウシガエル)だったし(1コーラス目に登場する)。それがブルドッグになったのはポールがレコーディング中に吠えたから、ということらしい。
 おまけに、映画「イエロー・サブマリン」ではこの曲のシーンは「4つの頭を持つ犬(ブルードッグ)」が奇形の表現だとして、長らくカットされていたというから、吉井和哉に合う要素が、何から何まで整っているわけだ(?)。

 で、後半の「Hey Bulldog」のリフレインでは私も押葉君も、吉井さんとともに大いにシャウトさせてもらいました。何と光栄なことでしょう。それだけでも私としては満足でしたね、イヤハヤ。また、その合間をぬって十川さんの過激なピアノ・ソロ、名越君のキレまくったギター・ソロがうねりを上げてましたね。ほんと、おおバカかましておりました。とにかく、ここでいったんキレてしまいましょうが、我々の合い言葉でした。

e0093608_1141375.jpg だから、次の"I'm Losing You"は切り替えが大変だった。なので、イントロあたりでは、まだ息が上がった感じがあったかもしれない。とは言え、この曲は実に渋いブルーズだと思っていて、とても好きだし、演奏のしがいがある。"Double Fantasy"ではニューヨークのスタジオ・ミュージシャンの洗練された演奏が聞かれるが、我々はもう少しアーシーな方向性になっていて、AOR的な表情のCDよりもロック色が強まったと思う。
 もちろん全体には淡々と、そしてキチっと演奏していかないといけないが、そうしていくうちに、ところどころに「毒」が盛ってあることに気付き(ほんと、やっかいなBメロ)、ちょっとずつクラっとしながら進むのだった(吉井さんにも一瞬毒が)。

 間奏のツイン・ギターでのハモリも土屋&名越の名コンビが見事に再現してくれたし、後奏での土屋さんはシブすぎるぐらいにシブかった。彼のキャラが、よりこの曲をロックよりに色付けたとも言える。
 それと、吉井さんの声の魅力。けして歌が圧倒的にうまいわけではないが、一度耳にすると離れがたい気持ちになってしまうのが、彼の凄さだ。そして、普段の生活感ある世界から、一気に別世界に拉致されてしまうかのようだ。それが、ジョンの曲と相まって、完全に毒がまわってしまうということになる。

 そんな吉井さんらしさが、最も表れたのが3曲目にやった"Help!"だった。

e0093608_11411981.jpg 始めは、オリジナル・バージョンでやるものと思っていたら、リハの数日前にバラードにしたいとの意向を聞き、参考の音源を送っていただいた。それを元に私が簡単な譜面をおこし、リハ当日にご本人とセッションしながら完成させていったのが、今回のスロー・バージョン"Help!"だ。
 あのリハの日、この"Help!"が完成した瞬間、「これで、我々の本編はキマった!」と確信したし、最高の状況でラストの忌野清志郎さんにバトンを渡せると思った。それは、バンドだけでなくスタッフも思ったはず。舞台監督の中村さんも上機嫌で、これを大きな山場として捉える事が、全員の暗黙の了解だった。

 それほど、興奮させるセッションがあり、私は自信を持ってこの"Help!"を武道館においで下さった皆さんにお届けすることが出来たと思っている。

 当初の参考音源では、ピアノとシンセのみでの演奏だったが、そこに力強いドラムやオルガンも加え、スライド・ギターによる間奏で膨らませ、再び静寂のキーボードのみの世界へ、SE的なシンセでの映像的なカラーリングもおこなった。
 私のイメージはデイヴィッド・ボーイの"Space Oddity"や"Ziggy Stardust "。それを言うと、吉井さんは「最後はピンク・フロイド的な」と加えた。そんな会話で、我々は共通の認識に立って音楽が出来た。そういったことが、大きな満足感を生む。ともにステージに立つものが、共感しあって共鳴する喜びは、何事にも代え難い。こういう機会を与えてくれた吉井さんには心から感謝している。

 本番では、イントロの十川さんのピアノから、エンディングでのキーボード2人の絡みに至るまで、ずっと集中したパフォーマンスになったと思っている。とにかく、やりきった感がものすごくあった。この曲で、我々は再び休憩に入ったのだが、いつもなら「イェー!」とばかりにハイタッチしたり、ハシャいだ会話で盛り上がっているのに、この時は私も古田君も呆然としていた気がする。それだけ入り込んだし、やる事やったという充実感があった。

 良かった。うまくいって。きっと、これなら大丈夫と思った。

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by harukko45 | 2007-12-17 11:47 | 音楽の仕事

おやじミュージシャン和田春彦の日記でごじゃる
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