Screaming In MORIOKA Part 2

 前の曲の熱気がまだ収まらない会場が、ざわざわしている。次のフレーズを弾き始める私の左手の小指が、鍵盤に触れるまでの時間は、ほんの10秒足らずだろう。だが、永遠というものがあるなら、この瞬間をいうのではと感じることがある。音楽は時間に司られた芸術だから、その小指で【C音】を弾いたら最後、決められた【THE END】に進んで行くだけだ。故に、この弾き始めるまでの時間はことのほか長く、特別に感じられるのだ。

 「なに、かっこつけてんだよ、このトウヘンボク!アンタよ、前にウケねらって、‘Disco Medley’でアフロ・ヘアーのカツラつけて演奏した時のこと思い出せよ、ヘヘェ〜ン、思いだしたか?

 エンディング終わって拍手万雷を期待してたアンタはよ、アッケにとられて静かにしてる客に泡食ってよ、あわてて次を弾き始めたじゃないか、エ〜。そん時ドウナッタ?

 かぶってたカツラ取り忘れて、アフロ・ヘアーのまんまで‘シルエット・ロマンス’やってなかったか?それどころか、妙に曲に入り込んじまって、その頭をブンブン振ってよ、ベートーベン先生にでもなったつもりかよ!

 最後の最後まで気が付かず、完全に曲が終わってからタマちゃんに、『ワダさん、カツラ!カツラ!』っていわれて、たいそうビックリしてたじゃないか。ああいうのを、‘穴があったら入りたい’て言うんじゃないか?」

Oh! Shit.何て事を思い出させるんだ!おお、しまった!もう15秒くらいたったかもしれない。集中、集中!

 私の弾くシンプルなアルペジオに誘導されて、着替えが終わった【純白の純子】さんが再登場だ。もちろん‘シルエット・ロマンス’を歌うために。

 この曲はジュンコさん最大のヒットであり、これにより日本レコード大賞の最優秀歌唱賞を受賞したわけで、これが目当ての人も多いはず。最近はカラオケで一般の人たちもよく歌う一曲らしいが、実は意外とむずかしい。

 作曲は来生たかおさんだ。そもそも来生さんの曲は、彼のボヤキ、イヤ失礼!、独り言をめんめんと綴っているのだが、ここに来生えつこさんのロマンチックで激しく燃える女心の詞がのっているわけで、この両方をちゃんと表現するには、たいそうな歌唱力が必要なのだ。もちろん伴奏も、ロマンな気分で含みを持たせたいが、あんまり弾きすぎてはクサくなってしまうし、かといってアカデミックにきちきち弾くのもおもしろくない。この辺のバランスは常に課題だし、音楽の道は実に険しいの〜。しかし、なんといっても本家本元の歌、たっぷりとご賞味ください。

 さて、ライヴは生き物。今夜は思わぬ所にハイライトが訪れる。次は‘ビューティフル・ミー’とジュンコさんが告げると、お客さんから声があがった。ん〜、いいね、この曲知ってるんだね、聴きたかったのね、待ってました!って感じなのね。好きだな〜、そうやって真剣に音楽を聴いてきた君の姿勢が。オジサンはうれしいのだ。この名曲のことをちゃんとわかってる人がいてくれるなんて。

 ‘ビューティフル・ミー’の作曲者は、我らのプロデューサーでもある佐藤健さんだ。彼はご存じのようにジュンコさんのレパートリーのほとんどを手がけ、大橋純子の音楽のイメージを築き上げた人だ。ケンさんの曲の特徴は、ある種の幾何学的な要素があり、計算された構成力と洗練された和声とリズムを持っている(その代表作は‘シンプル・ラブ’‘サファリ・ナイト’‘クリスタル・シティ’などなど)。だからといって、決して技巧的なだけなのではない。熱い感情や情熱は氷付けにされて、曲の小節と小節の間に隠されている。中に秘められているのだ。だから、彼の曲は都会的なクールなムードが漂っているわけなのだ。

 しかし、この‘ビューティフル・ミー’は、そのケンさんが普段と違い、心のおもむくまま、感情にまかせるままに創ったと思える作品なのだ(本人に確認は取ってませんが、)。「ねえ私 子供の頃から〜」で始まるBメロを、みなさんはどう聴くだろうか?胸がキュンとしない人は感受性に問題ありと、独断と偏見で診断させていただきます!そして、山川啓介さんの素晴らしい詞!(歌詞をチェックしよう。)じんわりと心に広がりを与えてくれていませんか?私も大好きだ。みんなはどう?

 こういう時は、演奏しながら曲に聴き入ってる状態だ。ただただ、作品自体に身を任せているのだが、曲のパワーが演奏者を自然とあるべき方向に導いてくれるからだ。ん、ん、あったかい拍手をアリガトウ!

 さあ、あとは一気にいこう。‘メロディ’‘サファリ・ナイト’‘ペイパー・ムーン’はこのバンドの真骨頂を示す曲達だ。もちろん、この日も燃えに燃えてぶっとばした。Oh,yeah!俺達の熱演に、盛岡のお客さんも鳴りやまない拍手で答えてくれているじゃないか!(Everybody,SCREAM!)

 熱唱、熱曲のお手本‘愛は時を越えて’を終え、アンコールに応えて‘シンプル・ラブ’だ。昔から大橋純子を聴いてる人ならわかるだろうが、この曲こそ【大橋純子そのもの】であり、今もそれはちゃんと続いている。ここでも又、Bassが肝だ。アルバム“Rainbow”では福田郁次郎さんの素晴らしいプレイが聴けるが、現在それを見事に再現し、なおかつ自家薬籠中の物としているのは、六川正彦さんしかいない。彼でなくてはこうはいかないのだ。

 コンサートの最後、‘My Love’でジュンコさんが【Hi-G音】を見事に決めて、彼女のポリシー‘出し惜しみはしない、全部出し切る!’は、ここに達成され大団円となって、すべてが終わった。盛岡のみんなに大感謝。

 さて、大成功に終わったコンサートの後は、飲んでバカやって大騒ぎして、緊張感から自分たちを解放する。この日も夜遅くまで、大いに盛り上がった。次の朝、私とロクさんは他のメンバーとは別れ、多少酒の残った身体を引きずりながら、「おくさま」のレコーディングに向かった。かくもミュージシャンの生活とはシンプルなのだ。演奏し、終わって酒飲んで、次の場所へ移動し、また演奏する。この繰り返しなのだが、これがやめられない。
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by harukko45 | 2001-03-10 16:06 | 音楽の仕事

おやじミュージシャン和田春彦の日記でごじゃる
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