レコーディング後記その2
2001年 07月 03日
さて、レコーディングの初日はもろもろのセット・アップやドラムの音決めなどで時間をかけるから、実際のリズム録りが始まったのは15時ごろからだった。あ、そうそう、今回のレコーディングとミックスをお願いするのは、セリザワ君だ。彼はSound Crew所属のエンジニアで、まだ20代ではあるが、もうすでにPro Toolsの達人である。彼の師匠は通称《博士》と呼ばれている北城氏であるから、セリザワ君は《プロフェッサー》とでもいいますか。ま、とにかくこの後、プロフェッサー・セリザワとPro Toolsとの間に繰り広げられる数々のドラマを、この時点ではわかりようもないのだった。
‘Ken M-1’を1,2回やってみて、キーとテンポはかたまったが、まだいまひとつグルーヴが決まらない感じだった。ケンさんのデモの打ち込みドラム・パターンを生で再現しようとしすぎて、ノリが堅くなっているからだ。そこで、デモにある印象的なハイハット・パターンはダビングにすることにして、ウエちゃんには自然にノッていけるように叩いてもらうことになった。それと、ドラムの音味がいまいっぽなので、もう少し煮詰めていった。しばらく、プロフェッサー・セリザワとウエちゃんが試行錯誤したのち、ご機嫌なサウンドになってきたぞ!これで、イケル!その気にさせるムードがわき上がった。
こうなると、はやいのである。さっきまでとはうって変わって、ウエちゃんがイキイキとしたビートをきざみはじめ、常に安定した演奏を提供してくれているロクさんもますます楽しそうにプレイしている。タマちゃんはフェーズを大胆にかけたミュート・パターンをくりひろげて、よりR&B色を出してくれた。私はコーラス・エフェクトをきかせたFennder Rhodesで、それらを包み込むのが役目だ。みんなが自信にみちたプレイを展開することで、‘Ken M-1’のメロディ・ラインの美しさが際だってくることとなった。
今回のレコーディングにあたって、私はひとつのポリシーをもって臨んでいた。それは、『人間を録ること!』である。ふん、あたりまえじゃないか!そう、あたりまえのことだ。人間が演奏するのだから。しかし、それがなかなかできないのが現実だったし、これまでの反省でもある。いい音をただ録音するのでなく、そのプレイヤー達の人間性・感性、演奏時の喜びや葛藤をそのままパッケージしたい。まして、ライヴもともにしているメンバーでレコーディングしているのだから。
“Time Flies”は、今聴いても自信を持って、お薦めできる内容ではあるが、まだ、メンバーひとりひとりの個性を十分に引き出すには至らなかった。どちらかといえば、アレンジメントが優勢な感があるし、バンドもまだ成熟していなかった。しかし、2年の歳月が我々とジュンコさん・ケンさんとの間に、ある同士的、仲間的強い絆を生んだのだ。だからこそ、この状態をなんとしても記録したかったのだ。
具体的には、各自の自発性、セッション時の偶然性を生かすようなシンプルなアレンジを心がけたい。そこで生まれる自然発生的な気持ちのいいグルーヴでジュンコさんのヴォーカルを引き立てたいということだ。そして、結果として、聴く人々に「あ〜、いい曲だね、気持ちのいいノリだね。」とシンプルに感じてくれるようにできあがれば大成功なのだ。
こうして、まずは‘Ken M-1’のベーシック・トラックが出来上がった。ノリが良いだけでなく、ある種のストーリーを感じさせる演奏が録れた気がする。みんな、いたくご機嫌である。まずは滑り出し好調だ。
食事の後、‘I Wish’の録音にとりかかる。「軽音」でリハ済みなので、グルーヴをつかむのは心配していなかったが、これはサウンド面で少しこだわりたいのだ。全体にキレイにせずにヨゴシたいとでもいうか。で、みんなが仕上がったあとで、エレピをライン録りでなく、Rhodes本体のスピーカーをならしてマイクでとりなおした。こうすることで、少しでも空気感を音楽の中に封じ込めたいのだ。この試みはなかなか良かったし、みんなの演奏もよかったが、まだ想いえがくところにはきていない。が、これはダビングを重ねることでじょじょに見えてくるだろう。ただ、このテイクのジュンコさんの仮(!)歌が実にワイルドでかっこよかった事をお伝えしておきます。
さて、第一日目としては成果上々、ノルマ達成とはいかなかった(少し、キーボードのダビングを残した。)が、いいリズム・トラックが録れればバッチリでしょう!というわけで、お疲れ様のビールで乾杯!ロクさんは自分のパートが終わったころから「ビ〜ア、ビ〜ア。」いうてましたな〜。お待たせしました。く〜、いい仕事のあとの一杯はたまりませんな〜、ほんま。