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レコーディング後記その5

 6月14日、朝8時入りの恵比寿ウェスティン・ホテルに向かう車中、‘Sakiya M-6’の具体的なイメージがパァーッと浮かんできた。ん〜、これぞ火事場の馬鹿力、音楽の神様が降りてきたというところか?これまでこの曲をずっと避けてきたわけではなく、ケンさん、ジュンコさんともいろいろ話し合い、アイデアを出し合ったのだが、いまひとつしっくりはまらず、まとめられなかった。それが、明日のレコーディングを前にやっと前方に光りが見えてきたのだった。こういう時って、思わずニンマリした顔してんだろうな。

 ‘Sakiya M-6’は作曲家・プロデューサー、また本人もアーティストとして活躍中の崎谷健次郎氏の曲で、今回のメニューのなかでも一番キャッチーでハデさのあるメロディーを持っている。ただ、崎谷氏のデモのアレンジを踏襲するだけだと、他の曲から浮いてしまうきらいがあって、試行錯誤していたのだが、ここに来て結論!

 デモでは劇的な始まりでボーカルが朗々と歌うのだが、それをさりげなく始めて、元のクラシカルなコード進行を生かして、キーボードだけでつくる。本編のハネるビートをやめてフラットな16ビートにして、アフターの16分音符のクイを強調する。ベースのラインを印象的に(シンセ・ベースを加えたり) して、R&B系のムードを引き出す。ブラスのセクションを効果的に入れてハデさを失わないようにする。パーカッションなど鳴り物系を多用して、ガチャガチャ感を出す。間奏はアドリブ・ソロでなく、デモにあるきれいなピアノ・メロを参考にアンサンブルで聴かせよう。エンディングをファンキーなリズムにブラスのリフが印象的に絡むようにする。

 さて、ウェスティンでのリハーサルを終え、一回目のショウは15時ごろ無事終了した。各自、レコーディングや早朝のリハの疲れにもめげず、よく集中したプレイぶりだった。そして、この後二回目のショウまで5時間ある。みんな、思い思い時間をつぶさなくてはならないが、私は部屋をとって、アレンジ作業をすることにした。家からMacとキーボードをホテルに持ち込んでいたのだ。今思えば、この5時間は大事だった。なぜなら、上記のアレンジメントのアイデアをコンピューター上におおまかに打ち込んで、基本的な方向性をデモとして、ケンさん・ジュンコさんに聴かせることができたからだ。

 二回目のショウも無事終了後、お二人にこのデモを聴いてもらい、OKを頂いたので、まずは一安心。遅い夕食をとって、さあ、一気にダビング関係のものも仕上げて、明日はバァーッと録ってやると思っていたのだが、突然、この曲の間奏が著しく格好悪いのではという妄想にかられてしまった。それは悪魔の囁き、イタズラだったのか、一度そう思い始めるとますます深みにはまって、この構成では曲があっという間に終わってしまうのではないか?とか、間奏を盛り上げないと台無しになるのではないか?などなどマイナス思考に一直線に突き進んでしまった。そして、間奏を決められず、時間はどんどん経っていった。

 すっかり夜が明けて、あせりまくっていた私はタバコを一服して考えた。こりゃ、ハマってるのか?まさにハマっちまったに違いない。こういうときは、原点に戻るしかない。そして、最初に考えた間奏に戻って、なにも問題ないことにやっと気がついた。結局、この数時間は全くの無駄だった。ま、よくあることではあるが、こんな時になるなんて!おかげで、一流ホテルの部屋も満喫する余裕もなく、スタジオに向かった。予定したことまでアレンジを仕上げられなかったが、ベーシック・トラックはすぐに録れると思っていた。

 しかし、実際に録音が始まると、もともと私のミスなのだが、打ち込みのパーカッションとクリックとのズレがやけに気になり始めたり、譜面も今までの曲に比べて、指定したものが多く(つまり、譜面が真っ黒)、もろもろ細かいことが気になって、こちらも少々意地になってしまい、何度も何度もみんなに演奏させることになった。メンバーも前日の疲れを引きずっていて、ガンバッテいたが、気持ちと身体がだんだん離れていくような気配だった。バッチリ、ハマってることにやっと気づいた我々は、前のテイクを聴き直し、決して悪くないことを確認したのだった。

 この日の物語はこれで終わらず、とどめはロクさんにおこった。彼は、我々の中で最もスタジオ・ミュージシャンとしてのキャリアが長く、ミスもほとんどないのだが、突然、サビ前のシカケが弾けなくなってしまったのだ。OKのベーシック・テイクの前までは、問題なくプレイしていたのにである。そこの部分だけ(1小節)取り直しをしたのだが、しばらくはちゃんと弾けないままだった。ケンさんが、ロクさんのそばにいって、彼がハマっていることを気づかせるまで、それは続いた。

 長い一日はそうして終わった。いろいろあったが、何とか‘Sakiya M-6’のベーシックはできた。改めて、みんなで聴くと、なかなかいい演奏してるテイクじゃないか!そこへ、ライヴの帰りにスタジオに顔出したゴトウさんが、「あれ、楽しそうな曲、演奏してたんだ。」との感想をもらす。ふ〜、そうだね、何だかんだ言っても、けっこう楽しかったかもね。
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by harukko45 | 2001-07-07 00:00 | 音楽の仕事 | Comments(0)

おやじミュージシャン和田春彦の日記でごじゃる


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