レコーディング後記その8

 ‘Ohtsubo M-7’は、プロデューサーとして売れっ子の大坪稔明氏の曲だ。はっきり言って、彼のデモは完璧なサウンドである。同業者として脱帽なのだ。彼の作品集も聴かせてもらったが、どれも完璧な仕事ぶりで、このサウンドが欲しいのであるなら、私もジュンコ・バンドもおよびでない。しかし、今回私にこの曲が回ってきた以上、なんとかこれをねじ倒さねばならない。私のハートは秘かにメラメラと燃え上がってきたわけである。

 そこで、私が浮かんだイメージは黒人アーティストの中で最も敬愛するMiles Davisだった。Milesのアルバムはほとんど持っているが、特に1969〜75年あたりのものに私は、ぞっこんなのだ。ちなみに、私がほとんどのアルバムを揃えているアーティストは、Miles Davis,Brian Wilson/The Beach Boys,Rolling Stones,Bob Dylan,Carole KingそれにBruno Walterだ。一見、脈略がなさそうに見えるが、私の中ではしっかりと「和田のお気に入り」というジャンルが確立されているのだ。文句あっか?

 話がそれた。さて、実際のレコーディングの日、ウエちゃんにはJazz用のセットを組んでもらった。また、セリセリには少ないマイクでワイルドに録ってもらうことにした。この日、幸か不幸か、ロクさんとタマちゃんが来るのが夕方だったので、ウエちゃんと私とでセッションが始まった。

 Loopのドラムとコンガに、シークエンサーによるシンベを聴きながら、私はFender Rhodesを弾き、ウエちゃんはサビから登場だ。ここから、仮想ツイン・ドラムになる。私も別パターンのRhodesをダビングして、ツイン・エレピというわけだ。いや〜、とにかくウエちゃんはめちゃくちゃカッコよかったのだ。最高に良くキレたゲバゲバぶりだった。ウエちゃんに後光がさしているようにも感じた。今回のベスト・パフォーマンス賞をさしあげましょう!私もそれにあおられて、ついついイケイケになってしまう。

 もう、この時点で80%できてしまったようなものだが、この後、タマちゃんは音数少ないがセンスのひかる効果的なバッキングをプレイし、この浮遊してて、どこかにいってしまいそうなオケを、大地にしっかりつなぎ止めるため、ロクさんのベースをいれた。後日、いくつかのシンセとゴトウさんによるソプラノ・サックスをダビングした。この曲において、ベース以外、ボーカルも含め全ての演奏は、カラーリングなのである。音楽というカンパスに楽器で色を塗っていく作業だったのだ。そのことを直感的に理解してくれたメンバー、ミキサーに感謝したい。

 また、世間が思っているイメージとは違うこういう曲に果敢に挑戦するジュンコさんの姿勢も素晴らしいし、なおかつ、ここには、女のどろどろした情念のような内容の歌詞がつき、ますますオモロイことになっていった。そして、ジュンコさんはその歌詞をあえて、いままでにない押さえたトーンで淡々と歌ったのだった。そのセンスの良さは賞賛に値するのである。

 さて、今回最後に登場するのは、崎谷健次郎氏作曲の‘Sakiya M-8’。前日、ケンさんのアレンジにより、コード進行がすっかり変えられ、オリジナルのロック風なイメージは一掃され、佐藤健氏のフレーバーひろがる世界になっていた。私は間奏のコードをいじくる程度で、ほぼそのイメージを表現する方に神経を注ぐことにした。

 本日絶好調のウエちゃんは、ハネるビートが実に気持ちよく、ロクさんはまさにいぶし銀のようなプレイを披露し、タマちゃんは渋さに溢れながら、それでいて自由奔放な色づけをしてくれた。私のフェーズをきかせたエレピも、それらをうまく包み込めたと思う。ジュンコさんもすっかりゴキゲンで、エンディングではノリノリでフェイクしまくって、我々をどんどん引っ張っていく。 なんとも楽しいセッションで終えることができたのだった。ただ、数日後のサックス・ダビングでゴトウさんは、間奏のソロで相当苦しんだ。何度も何度もテイクを重ねて仕上げたのだった。しかし、こういう葛藤しながらのプレイを録音できたことは、私にとってはある意味、喜びにも感じたのだ。別にイジメているのではない。ゴトウさんが葛藤しているのは、それだけ彼が、真剣に音楽と向き合っている証拠だからであり、本人にとっては苦々しいことも、逆に美しく思えてくるのである。こういうことは、後々素晴らしい思い出として、強く記憶に残っていくのだ。

 7月1日に、楽器関係のレコーディングは終了し、私は休みをもらい、その間、ケンさんのアレンジ・プロデュースで、ABデコーズによるコーラス・ダビングがおこなわれ、あとはトラックダウンとマスタリングを残すのみとなった。まだまだ、気の抜けない日々は続くのだ。

 ところで、このアルバムにはもう一曲収録される曲がある。佐藤健作曲、大橋純子作詞による‘風の舞う町’だ。これは、5年前のアルバム“Tokyo Daze”時にレコーディングされたものだが、当時のディレクターがシングル扱いにしたいとの希望でストックしていたのに、いつのまにかオクラになってしまったのだ。ところが、この曲はたいへん良い出来なのだ。アレンジした私もかなりテンションを上げて臨んだものだったし、その仕上がりには満足していたのだ。それを、長いこと世に出せず、実に残念な気持ちだったのだが、今回、ケンさん・ジュンコさんが改めて聞き返して、アルバムのコンセプトにあうと判断し、めでたく収録のはこびとなったのである。これには個人的に感謝感激、おおいに喜んだ次第であります。

 さあ、ファンのみなさん!あとはあなた方の出番です。8月末発売の大橋純子ニューアルバムをレコード屋さんに行って、今から予約しましょう!そして、発売日にしっかり手元にGetして、CDプレイヤーにかけなさい!最高にハッピーになること絶対です!どうぞ、よろしくね。
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by harukko45 | 2001-07-09 01:00 | 音楽の仕事

おやじミュージシャン和田春彦の日記でごじゃる
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