クリスマス・ツアー〜第九章:新サエコ‘ブリジット’スズキの日記
2001年 12月 26日
札幌午後10時45分/ うぅっ、今年もジュンコさんのステージは全て終了、後はクリスマス・ツアーの打ち上げを残すのみ。つまり、今は宴会場である居酒屋「俺んち」に向かってタクシーに乗っている訳よ。だけど、何てことなの!後の席でマー坊さんとゴトウさんに挟まれて座っちゃうなんて。これって、最後の最後で地獄を味わえっていうことなの?いや、別に二人ともいい人よ、おもしろいしね。でも、ステージ終了直後にこの二人のノリにあわせるのは至難の業というもの。ああ、このどうしようもないオヤジ・ギャグの嵐から私を救ってくれるナイトなんか、どうせ現れないんだ。だから、今年最初に決めた通り、「男性の言動への過剰反応をやめること」を守らなきゃ、つまり落ち着いてクールな氷の女王を装うこと、これが私のポリシー、こうすることで内面の安定をはかり、ひとりでも完璧な女性なのだということを世間に知らしめるのよ!
午後11時、「俺んち」/ 何よ!着いてみたら、他のメンバーはもう楽しくやってるじゃない。人の気も知らないでさ。それに私の座ったところの下からすきま風が来るなんて、やっぱり最低、もう飲んでやる!ああ、いけない今年最初に誓ったこと「過度の飲酒をやめる」、アルコール摂取量は10単位以下に抑えなきゃ。(1単位=ワインならグラス1杯、ビールなら1パイント、その他のアルコールはショットグラス1杯で2単位)
12月25日(tuesday)
午前0時半、まだ「俺んち」/ ここで口にした食べ物・・ジャコキャベツ小皿に2杯、卵焼き1きれ、ほっけ焼き少し、ジャガバター1つ、刺身盛り合わせからイカを一口、きんきの煮付け半身ほど。
ああ、とんでもない盛り上がりになってきちゃった。だって、お店じゅうのワインは飲み干しちゃうし、ケンさんとバンマスは例によって日本酒、すさまじいペースで流し込んでるし。そして、ついに始まっちゃった。マッチャンが一気飲みをケンさんに挑戦。この二人は何年にもわたり宿命のライバルとして酒飲み王を争っていて、この時期になると必ずファイトするのだ。うぅっ、今年はケンさんが優勢、マツはだんだん弱ってきちゃって、ついにダウン。あああ、別名アニマルと呼ばれたさすがのマッチャンもそろそろ年齢にあった飲み方しなくちゃいけないのよ。でも、場をもりあげなきゃっていう使命感でガンバッチャッタていうところなのかな?こういうとこ見ると、男ってやっぱカワイイなんて思うけど、いけない、いけない、今年最初に決めたこと「男性への過剰傾斜をやめる」。つまり、一人前の大人としての人物評価にもとづき、きちんとした人間関係を築くことを守らなきゃだめなのだ。
午前2時、どっか2階の洋風居酒屋/ 結局、2軒目も来ちゃった。何人かは帰ったのに私がいるなんて!あんなに注意してたのにアルコール単位はいくつだかわかんなくなってしまった。おまけに私の分身状態がはじまりそう。なぜなら、私の血液型はAB、つまり自分の中にそのAとBの二人の自分が現れるわけ。なんか、ほんとにそんな感じになってきた。だって、ブリサA子は隣のタマちゃんと激論中(?)、なんだか随分とよく喋ってる。でも、ブリサB子はちゃんと見てるぞ。向かいの席じゃ、バンマスがマネージャーのオザワちゃんにデレデレしてるのを。オザワちゃんもディナー・ショウが終わって、ほっと一息、今日はリラックスしてるとこに、ほとんどドロドロのバンマスったら、「オザワ、何飲んでんの?グレープフルーツ・ジュース?だめだよ〜。お酒飲まなきゃ!サワ〜にしちゃうぞ〜。」だって。
ねぇ、聞いた?じょうだんじゃないわ!うしろからはり倒してやりたいぐらいのだらしなさ。これぞ「情緒的うすらばか」の典型。私やオザワちゃんのようなシングルトンの最大の敵なのよ。それにバンマスといえば、会社で言えば上司にあたるわけよね。でも、私は今年最初から誓っていたのだ、「上司に過剰な期待を持つのはやめること」を。フェミニストであるB子のテンションはどんどん上がってきてしまった。なのに何故?私、目に涙が溜まってる。ううっ、A子はタマちゃんと話して盛り上がりすぎてる。タマちゃんはこの中では一番クールかも、でも時々核心をつくような事をズバって言う。だからA子もいろいろ話しているうち、段々感極まってきちゃたのだ。
そうしたら、B子が3年前、2年前、去年、そして今年のいろんな思い出をどんどん、どんどんと呼び覚ましてきてしまった。その思い出が走馬燈のように駆けめぐる中、おかげでもう、私の心はいつのまにか、ほとばしる「情緒の泉」と化していて、その上を、激しい「情熱の嵐」が吹き荒れていたのだ。この時の私といったら、世界中の誰よりも美しさに憧れ、そして理解していた唯一の存在だったに違いない。まさに「この人を見よ」って感じ。
今、もし誰かが、キューピッドの矢が落ちた場所に咲く「浮気草」の汁を私のまぶたに塗ったなら、私は目が覚めて最初に見た相手とほんとうに恋に落ちてしまうだろう。それとも、トリスタンとイゾルデが飲んだ「愛の妙薬」を私も飲んで、美しい「愛の死」を迎えようではないか!めくるめく感情の渦は、私をすっかりとロマンチックな世界に導いた。でも、誰にも理解できまい、私のほんとうの心を。だから、決して明かしたりはしない。この豊かな心から生まれたこの涙を決してこぼすまい、と私は誓ったのだ。そう、そして私はしばし自分自身を楽しんだ。ところが、なんとタイミングの悪いことにバンマスが、「サエちゃん、いったいどうして泣いてるの?」
私は言った。「それは、あなたのせい。ワダさんのせいよ。」
ウエちゃんはこの時のバンマスの顔を写真に撮るべきだった。その瞬間、トローンとしてた目が急に泳いじゃって、これぞ魚の目!だから、いつも言ってるのに「ウエちゃんはシャッター・チャンスを逃してる。」って。
午前4時、どっかのうどん屋/ こんな夜中にうどんは完全にルール違反!でも、ジュンコさんも一緒だから神様も今夜は許してくれるだろう。どうしようもなくどろどろ状態のマー坊さんは、うどんを食べずに私達を見てるって。寂しがりやだもんね。だけど、絶対朝になれば記憶にはないにきまってる、きっとそうだ。一方、ケンさんとバンマスは向かいの飲み屋だって。信じられない!まだ、性懲りもなく飲み続けるのか?あの人たちの明日の様子が目に浮かぶ。でも結局、うどん屋隊と飲み屋隊は合流して、タクシーに乗ることに。もう5時ちかいけど、ホテルに向かった訳よ。
午前4時45分、タクシー内/ うぅっ、な、何とこの車には、後の席にジュンコさんと私に挟まれてバンマスが座ったのだ。おまけに、前にはオザワちゃん。どうぞ、女の館へようこそ。いまこそ、オXXX・ギャグを連発して、いきの仕返しを、などと思ったけど、やっぱり品性をしっかり保たなくちゃ。そう、今年最初に誓ったこと「内面の安定をはかり、人としての尊厳を失わず、中身を充実させ、ひとりでも完璧な女性だという自己認識を持つこと〜それが、真の恋人を獲得するための最短の道」これよ、これ。
午前5時、ホテルの私の部屋/ 出発は11時、どうやら3〜4時間は眠れそう。今日もやってしまったけど、これも私なのだ。後悔するとお肌に良くないから、考えすぎないように。でも寝ている間に、ほんとうに妖精パックがあらわれて、「浮気草」の汁をまぶたに塗られたらどうしようか。なんてね。じゃ、おやすみなさい。
佐江子‘ブリジット’鈴木