ブライアン・ウィルソンの“Smile”

 新潟の大震災といい、アメリカ大統領選挙でのブッシュ氏の予想外の大勝利といい、もう世の中これからどうなってしまうのか皆目わからなくなってきてしまった。そんな中、10月後半に発売された「Brian Wilson Presents Smile」を私は先日、ようやく手にした。私はブライアンの大ファンであり、ポップス界で最も尊敬するアーティストである彼の作品は常に私にとって「最優先」なのだが、今回は少々事情が違った。仕事が忙しかったこともあるが、すぐに買い求めなかったのは“Smile”であるがゆえに少しとまどったのである。

 Smile-このロック史上最大の未完成アルバムは、永遠に届くことがないと思われていたのが、今年に入ってブライアンはまずライブで(ロンドン2月)、その後37年ぶりに全曲ニューレコーディングしてついに完成させたのだった。そのことについてはただただ驚くばかりだったが、それ以上にニューレコーディングならば、その出来はどうなのか心配になるのも当然なのだ。なぜなら、“Smile”に収録予定だった作品は、その後のビーチ・ボーイズのアルバムで何曲か発表されていて、それら1曲1曲の素晴らしさに感動しつつも、未完の“Smile”自体は海賊盤などによってその内容の破綻・崩壊ぶりがじょじょに明らかになっていたからだ。つまりゴミ箱に捨てたはずのビーチ・ボーイズによる前のテイクをもう一度まとめるのなら理解できるが、何で30年以上もたって今さら新たにやり直すのか?

 とは言え、アーティストとは気まぐれなもの、やると言ったらやるし、やめたと思ったらさっさと放り投げてしまうのだ。特にブライアンのような天才についていくにはファンにもある種の忍耐が必要だ。と、くどくどと余計な事を考えつつも、やっぱり聴きたい!だって、Smileの完成盤だぞ!!

 そして、私は“Smile”を毎日聴いている。最初の1回のみ、あまりに大きな期待と不安ゆえにちゃんと内容を把握することが出来なかったが、その後何度も聴くうちにもはや“Smile”の虜である。この感覚は久々のもの。ビーチ・ボーイズの“Pet Sounds”も最初わからなかった。が、気になる何かがあって、再び聴く。それを繰り返すうちに、ある時とんでもない感動がわき起こってきたのだった。マイルス・デイビスの“Bitches Brew”を聴いた時も、モーツァルトの「フィガロの結婚」を聴いた時も、そうだった。

 真の傑作と出会うこと、真の感動を味わうことは、決して簡単ではない。最初は自分が理解できないことにとまどい、苦しみながらも、耐えながら芸術家についていく。そしてついに自らで理解し共感する地点にたどり着く。そうやって味わうことが出来た作品は必ず自分の一生に不可欠なものとなるのだと思っている。

 “Smile”はまさしくそういう作品だ。時代性に基づく安易な価値観を超越した、永遠の美を持つ豊かな音楽。これこそが、私に必要な音楽だ。音楽を聴く理由は「好き嫌い」ではない。「必要」だからである。

 今までバラバラだった“Smile”の断片は見事に結合し、すでに1曲としても素晴らしかった‘Heroes And Villains’や‘Surf's Up’‘Wind Chimes’そしてあの‘Good Vibrations’などが、より偉大な組曲となって蘇ったのである。ブライアンの頭の中にはこのように美しい世界が描かれていたことに感動するとともに、またあらためて彼の天才ぶりにひれ伏すのみだ。

 さて、90年代後半のイギリスの雑誌Mojoでは、ミュージシャンが選んだ最も偉大なシングルに‘Good Vibrations’、音楽評論家が選んだ最も偉大なアルバムが“Pet Sounds”と、ビートルズを抑えてビーチ・ボーイズが2冠を征したそうだが、この“Smile”はどう位置づけられるのだろうか。ブライアン自身は“Pet Sounds”が7点で、 “Smile”は10点とのこと。私は両方とも10点。もうファンとしては大満足だ。ブライアンが長生きしてくれて、本当に良かった。
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by harukko45 | 2004-11-07 00:00 | 聴いて書く

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