ウィーン2007(7日目)part2「ファルスタッフ」
2007年 01月 29日
生の演奏では、7年ぐらい前にやはりStaatsoperにて、プッチーニの「ボエーム」を聴いた。その時はテノールにロベルト・アラーニャがいて、とても盛り上がったいい出来だった。ルイージは実にバランスよくまとめていて、その指揮ぶりに好感を持ったのだった。
というわけで、ヴェルディの遺作にして唯一のブッファ、「ファルスタッフ」をルイージが振るなら、裏切られる事はなかろう。
で、確かに悪くはなかった、が、「ボエーム」の時のような感動はなかった。ウィーンの観客も冷ややかだ。おとといの「イドメネオ」の時の大絶賛のブラボーのような興奮した拍手は一切なく、おきまりのカーテンコールがあったのみ、ブーイングまではいたらなかったが、全体的には明らかに物足りないなぁという印象だった。
実をいうとこの「良くもなく悪くもなく」というのが一番記憶に残らなくなって、こうやって書くのも困るといったところ。
ルイージ率いるウィーン・フィルは確かな音響効果と美音を随所に聴かせてくれたし、さすがにうまいと思うが、どこか音楽に入り込んでいけないヨソヨソしさを感じてしまった。それはこちらの精神状態の影響もあるのだが、何しろ朝にとても心に響いたモーツァルトのミサ曲を聴いたせいもあるかもしれない。
そんな状況は、これまでもStaatsoperでオペラ前半によくあることだったが、時に後半になって全員が火の玉のように突然燃え上がって、それまでの平易さをぶち破り、万事OKにしてしまうのだった。が、それには何かキッカケが必要なのだが、今回はステージの歌手達も平均点の人ばかりで、飛び抜けたインパクトを与えるほどの力はなかったようだ。なので、最後までとてもよくまとまったまま、優等生的なパフォーマンスに終始していた。
私としてはルイージの職人的なしっかりした仕事ぶりには敬意を表したい気持ちがあるが、どうやらそういう渋さに完全に共感できるほど、私の精神は落ち着いていないようだ。だから、オケからはとてもいい音を引き出していたと感心しつつも、音楽としては少々退屈だったと言うしかない。
うーむ、それとヴェルディを聴く場合、今の自分にはまだ悲劇の方がいいのかもしれない。「ファルスタッフ」はかなり作者が「自分の最後は喜劇で」と目論んだ感じがあるし、意識的に過去の作品をパロディ化しているようなところがある。なので、これをいろいろと理解しきるにはもうちょっと上級のオペラ者になってからかもしれない。フェリーニの「8 1/2」的難解さがあり、それはフェリーニ同様、いつか理解した時にとんでもなく感動するような気もする。