ウィーン2007(3日目)

 天気予報では"Finally! Snow"ってなっていて、確かに朝から雪は降っていたが、かなり少なめ。寒さも恐れるほどではなく、午後には雪も止んでしまった。しかしながら、他のヨーロッパ諸国ではこの雪で大混乱となり、各地で被害も出ている模様だった。今年は大西洋のエルニーニョ現象で、ヨーロッパ・アメリカで異常気象とも言うべき、暖冬が続いて、とにかく雪が足りずにスキーのワールドカップも延期になったりしていたというのに、突然の寒波と大雪はさらなる混乱をもたらしているのだった。天気予報の見出しは"Finally! Snow"に続いて、"And Even More"となっていた。
 が、今のところウィーンは静かだ。

e0093608_1025216.jpg さて、午後からグラーベンにある有名な楽譜店、ドブリンガー"Doblinger"に昨日に引き続き立ち寄った。それで、昨日からチェックしておいた譜面を買うことに。この店は1875年創業でヨーロッパ屈指の品揃えを誇っており、当然クラシックが中心ではあるが、実はポップスも揃っていて、特にジャズやブルーズのコピー集やポップ・アーティスト達のソングブックから「バー・ピアノのための曲集」なんてのもあったり、ウィーンの酒場でよく聞かれるアコーディオンによる伴奏のシュランメラン音楽の譜面やシンセサイザーものまで、日本ではちょっと見かけないものが多数置いてあるのだった。

e0093608_104392.jpg だから、見ていると結構飽きませんね。で、その中でも意外に多いのがブギウギやらラグタイムやらのソロ・ピアノもの。前回来た時にはそれらの「トレーニング用」の教則本を何冊か買って帰ったが、今日は過去の伝説のプレイヤー達のコピー集を買いもとめた。ジェリー・ロール・モートン、スコット・ジョプリン、アート・テイタム。パっと譜面を見た感じでは、ジャズ史上最高のピアニストとも呼ばれるアート・テイタムのはかなりヤバイね。元々レコード聴くだけでもとてつもないが、実際問題この譜面によると、左手がずっと10度で動いてて、私には届かない。でも、何とか工夫して練習し、少しでも身につけられるように頑張りたいと思っております。


 正直、私はこれまで、自分のやりたいと思う事と、実際にやれる事やっている事のギャップを感じながらも、ずっと現状に甘えるばかりで、やりたい事をするための鍛錬を怠ってきた。それでも、こうして音楽をやっていられるのは、これまでに巡り会ったアーティストやミュージシャンの方達のおかげだし、そういう人々と出会えた自分自身の幸運によるものだった。
 が、3年前ある小さなライブハウスで演奏している時に気がついた。もともと少ない才能と過去の仕事の経験からなる貯金を少しずつ崩しながら、こうしてミュージシャンを続けていくのは、もはや限界ではないのか。このままでは、何とか持たせていたメッキもはがれ、中味など何も無い自分がバレてしまうではないか。そして、それはずっとお客をだましながらやってきたということに他ならない。だいたい自分自身を表現できていないのだ、自分を表現できないミュージシャンなんかに誰が金を払うというのか。
 その時はあまりの恐怖に絶望的な気分になった。

 前回ウィーンを訪れたのがその直後だった。そして、旅行中何度も同じ恐怖と絶望を感じ、それはより深まった。なぜなら、この町で聴かれる音楽とそれを演奏する音楽家に比べて、自分は遥かに劣っており愚かだったからだ。音だけではない、この町そのものが私自身の愚かさを浮き彫りにするように感じたのだ。絶望は、何もマイナスなものからのみやって来るのではなく、あまりにも美しく豊かなものや表現に出会い、それに深く感動することで、自分自身の存在価値を見失うこともある。こんなに美しいものの前にあって、自分など無意味だと。
 そう言った挫折感を感じる事は初めて訪れた時から毎回あった。が、そのたびに少しずつヒントをくれるのもウィーンだった。最初のうちは、この町に来て少しはまともにすごせるように基本的な「しつけ」を受けたようなものだったが、前回はついにミュージシャンとしての根幹に関わる問題を突きつけられた。そうして、導かれるように行ったのがドブリンガーだった。
 そこで出会ったブルーズとブギウギの曲集をこの2年間コツコツ練習することで、ようやく最近、ある明解なヴィジョンを持てるようになった。それは、自分の「やりたい事」とは「自分を表現すること」に他ならず、その実現にはそれに適した頭と身体の鍛錬が絶対に必要であること、それが例えばブルーズやブギウギ、つまり基本に帰れ、ということ。クラシックの総本山のような場所で、ブルーズを渡されるというのが、自分には象徴的に思えた。

 本当なら10代や20代のうちに気づいておくべきことだった、が、こんなに時間がかかったのは、やはり精神的に未熟だからだろう。なぜなら、今日もまたウィーンから強烈な挫折感を味会わされた。それは自分の人間性の愚かさについてだ。50を目前にして私はあまりにも子供じみた愚かさで生きている、些細な事でイライラし、嫉妬し、疑心暗鬼の固まりとなって、いろいろな人を傷つけているのだった。愛される事ばかり望んで、人を愛することを忘れている愚か者の自分の姿が寒々しい空気の町中で鮮明に浮かび上がったのを感じた。だから眠れなくなって、このようにブログで懺悔でもしているつもりか、これまた愚かな姿か。
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by harukko45 | 2007-01-25 10:05 | 旅行

おやじミュージシャン和田春彦の日記でごじゃる
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