Stanley Kubrick

 いったい、正月からWOWOWは何を考えているのだ。1日の深夜「フルメタル・ジャケット」2日の深夜「時計じかけのオレンジ」を放送し、そして3日の深夜は「博士の異常な愛情(Dr.Strangelove)」をこれから放送する。おかげで毎日、朝まで見続けている。私はキューブリックの大ファンだからだ。
 だが、彼の大作が正月にふさわしいのかどうかは疑問かも。新年早々、暴力と殺戮にまみれた映画を観るのに抵抗あるかな。なんて、真っ赤な嘘。私はこの2日間、すでに何回も観ている「フルメタル・ジャケット」「時計じかけのオレンジ」に再び感動と興奮をおぼえたし、キューブリックが私にとって最も尊敬する映画監督の一人であることを確認した。

 「フルメタル・ジャケット」はこれまで製作されたベトナム戦争映画の最高作であり、「地獄の黙示録」も「プラトーン」も「ディアハンター」もかなわない。
 また、「時計じかけのオレンジ」は「2001年宇宙の旅」と「博士の異常な愛情」とともに、キューブリックの最高傑作3本のうちの1本であり、この監督が全く持って、他の監督達とは違う存在であることを示した偉大な傑作と思っている。

 細かい指摘や解説は映画にもっとくわしい方にまかせるとして、私のようなものが感じることは、彼の映画では、その題材への切り込みが、作家個人の視点などを超えてしまって、もっと違う次元、全てを俯瞰しているような場所から、この世の人間どもの愚かで醜い行いをリアルにえぐり出しているということ。が、そのやり方はとことん人工的に作り出されている。極めて人工的な映像リアリズムによる美の世界が、キューブリックの映画だと思う。
 そして、誤解を恐れずに言うと、キューブリックの映像を観ると「戦争さえも美しい」「暴力さえも美しい」と感じるのだった。
 その映像は「汚いものが、美しい」「美しいものは、きたない」、まるでマクベスに出てくる予言者が語るようなこの世の奥にある、真実を見せつける。

 彼が見せる暴力や殺戮は最初、それほど恐ろしくない、それよりも観ているものに快感さえ感じさせる。それは彼の脚本と演出、撮影と編集の切り口がするどいからだ。そして、奥行きのある、そしてやけに左右対称だったりする個性的な構図のマジックに幻惑されながら、その美しい1カット1カットに感動する。
 しかし、あまりにも美しい映像に一時も目が離せずに見惚れていることで、じょじょに私はその奥に描かれた真実をはっきりと知るのだ。それが、たまらなく心地よいと同時に、本当の畏れを感じることになるのだった。

 またある意味で、彼の映画はすべてブラック・ユーモアとも言える。もろにそうなのは「Dr.Strangelove」だし(1人3役のピーターセラーズとジョージ・C・スコットの名演技が凄い)、「時計じかけ...」も強烈な皮肉と風刺だ。これなど、近未来のロンドンが舞台だが、まさに現代を予言していたではないか。
 残念ながら、2001年に人類は宇宙旅行できなかったが、これさえもジョークに思えるところもあるし、「フルメタル・ジャケット」の前半部分はかなり笑える(それが恐ろしさに直結する仕組み)。

 さて、明日の深夜は「バリー・リンドン」だ。これまた美しい映像美にあふれた歴史大河メロドラマだ。「2001年」や「時計じかけ」のような強い刺激を求める人には物足りないだろうが、私はかなり好きだ。18世紀ヨーロッパ貴族社会を細部に至るまで緻密に再現し、ろうそくを多用した自然光での撮影による「こだわり」ぶりを鑑賞するだけでも損はない。

 今回、放送されないが他の有名作品についても付け加えれば、「シャイニング」はホラーをここまで格調高く美しく作り上げたことには感心したが、彼の偉大な作品群にあってはまあまあだろう。ジャック・ニコルソンを使うことで、彼が意識的にヒットを狙った唯一の作品かも?期待に応えてニコルソンは大熱演だったけど、最初からすでにイッちゃってる演技がちょっとね。

 遺作となった「アイズ・ワイド・シャット」はトム・クルーズとニコール・キッドマンの起用が全くの大ハズレで、およそ「らしくない」駄作になったのは、ファンとして至極残念だった。まぁ、こんなにもダサいトム・クルーズを見るのも悪くはないけど。妙な儀式や乱交パーティも彼の手にかかれば、かなり格調高く見えたが、ヴィスコンティのような本物の退廃までには至らなかった。ご本人も失敗と認める発言をしていたらしい。

 だが、初期の「現金に体を張れ」「突撃」、そして「ロリータ」にも魅力的な映像が多く、最後の作品で失敗したからといって、彼の偉大な仕事に傷がつく訳ではないと思っている。

 そうそう、彼は音楽の使い方のセンスも抜群にキレていた。「2001年」のR・シュトラウス、ヨハン・シュトラウス、「時計」でのベートーベンとロッシーニ、それとあのこわいこわい"雨に歌えば"。「フルメタル・ジャケット」では60年代ロック、特にエンドロールでのストーンズ"Paint It Black"が(ミッキーマウスのテーマの後だけに)最高にシビレた。
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by harukko45 | 2007-01-04 02:30 | 映画・TV

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