Bob Dylan/Modern Times
2006年 10月 03日
97年の"Time Out Of Mind"以来、彼の姿勢は全く迷いがない。現代に自分の存在価値をしっかりと確保したこの天才アーティストは孤高の世界を歩み続けているのだった。
ところで、ボブ・ディランを初めて聴く人、それなりに聴く人などにとっては、このアルバムは「渋い」と感じるのだろうか?そういう、コメントも見た。が、昔からのファンである私には、ちっとも「渋み」を感じない。それどころか、元気で明るく、枯れるどころか、まだまだ毒を振りまきながら、それでいて世間のことなどおかまいなしで、やりたいようにやり、歌いたいように歌っていて実に楽しそうだ。
元々、60年代からどこか達観したような表現をしてきた人だから、世の中の流行りすたりとは無縁ではあったろうが、それでもやはり「凄い」と言わざるを得ない。そうです、ディランは凄い!
と、絶賛の嵐ではあるが、"Time Out Of Mind""Love & Theft"からの3部作とも言えるような今回の"Modern Times"には、名曲というものは一切ない。実は、過去2枚にもそういうものはない。つまり、彼は60,70年代のような音楽作りはもうやっていない。「名曲」「いい曲」なんかいらないらしい。どれもこれも、いつだったか何処かで聴いたようなメロディ、リフ、リズム・パターン、それに3コードのシンプルなブルーズ進行も多い。
だから、1曲1曲、この歌詞はどうだ、この歌声はどうだと語ることが意味がないように思う。ディラン自身も"Time Out..."直後のインタビューで、「もう、歌詞を取り上げて、これはこんなことを意味しているとか言わないでほしい。それより、素晴らしい演奏に耳を傾けて、頭で聴かずに感じて欲しい。」という意味のことを語っていた。
私のような英語が不自由なものにとって、昔からディランの聞き方は歌詞を追ったり、曲を分析することでなく、ただただ感じてきただけだったので、ここに来て、本人のお墨付きをいただいたようなわけで、私としては大変うれしい限りなのであります。
そして特筆すべきは、ここ3枚におけるバックの演奏が本当に素晴らしいことだ。中でも"Love & Theft"と今回はともに長く一緒にツアーを回るバンドであって、その一体感と共感度・集中力の高さには惚れ惚れしてしまう。
何も新しいことはない、が、古くない。昔と同じように演奏しているが、根底にある意識は新鮮さを決して失っていない。自分が理想とするような「バンドの未来」がここにあるように思えた。
2枚目のDVDに収録された、ここ近年のPVもなかなか楽しめる。特に、ラストの"Cold Irons Bound"のディランとバンドのかっこ良さったらどうだ!これぞ、クーたまりませんの極地。チョビヒゲのディラン、今も最高にカッコイイ!
いやいや、自分の耳で確かめなければなりませんよね。
すごいところにいってしまっているんでしょうねえ、ディランさん。そういえばラジオで耳にしましたが世の中の音源全てに対して「もうがらくたみたいな音楽しか無いのだからネット配信なんて全て金取らず無料でやるべきだ!」なんてコトを公の場で吠えてしまっているらしいです。やっぱちがいます。かっこよすぎます。