ダニエル・ハーディング&ウィーン・フィル/モーツァルト・ガラ

 今年の7/30日におこなわれたザルツブルグ音楽祭での模様をNHKが放送した。全然情報を集めていなかったので、「モーツァルト・ガラ・コンサート」と題された内容に、あまり期待もせずに、「どうせ、ムーティあたりが振って、歌手がぞろぞろ登場してサラサラやるのだろう」と高を括っていたら、何と指揮にダニエル・ハーディング登場。放送時間を少し過ぎてからチャンネルをあわせたので、最初に演奏された"ドン・ジョバンニ序曲"の頭を聞き逃したものの、耳に飛び込んだ瞬間に、「おっ!これはハーディングの音」と気づき、にわかに真剣に聴き込むことになった。

 ダニエル・ハーディングは今年2月に同じくNHK-BSで観たエクサン・プロヴァンス音楽祭での"ドン・ジョバンニ"(2002)にすっかりノックアウトされて以来注目していたが、現在ではヨーロッパでも注目の大物若手指揮者として、将来の巨匠への道を着実に歩んでいる。
 今やほぼ主流のような古楽器風というのか、ピリオド・アプローチによる表現で古典を見事に蘇らせて各地で喝采を浴びているらしい。

 ただ、私としてはピリオド・アプローチに関してはどうのこうの言えない(ちゃんと理解はしていない)のだが、そういう表現を売りにする人が多い中、彼の表現はピンとくるものがあって好きだ。少なくともモーツァルトのオペラに関しては共感して楽しめるのだった。

 1曲目から最後までハーディングとウィーン・フィルの結集力は決して崩れず、何とも言えないピュアで深みのある音世界をキープしていた。まずはそれが素晴らしかった。どこにも軽薄さがなく、本場のウィーンでもよく出くわす「サラサラとしたBGM的なモーツァルト」な雰囲気は一切なかった。
 そして彼はテンポの選び方がとてもいい。序曲に続いた"カタログの歌"がまさにそう。また、3曲目の"彼女こそわたしの宝"での頭の美しい弱音の響きにはゾクっとした。

 6曲目の「ティトの慈悲」からの"わたしは行くが、きみは平和に"はメゾのマグダレーナ・コジェナーも素晴らしかったが、実はこの曲は歌手の裏で常に寄り添うように演奏されるクラリネットが大活躍して印象的なのだ。クラをこよなく愛したモーツァルトならではの美しい旋律をさすがヴィーナー・クラリネットで聴くと最高に素晴らしい。
 前半最後にはバリトンのトマス・ハンプソンが登場して堂々たるものだったが、私的にはあまり好きではない歌手。にもかかわらず、ハーディングのさばきが絶妙で、初めて聴いた曲"彼をふりかえりなさい"がとても新鮮だったし、盛り上がった。

 後半は「イドメネオ」からの抜粋だったが、まずは序曲の演奏が素晴らしかった。そのまま、オペラ本編に突入してほしかったよ!キメルところはキメル、歌うところは歌う。モーツァルトの刺激的なオーケストレイションの見事さがしっかりと伝わってきてご機嫌だった。
 そして、11曲目に今注目のソプラノ、アンナ・ネトレプコが登場で"オレステスとアイアスの"を。曲もかなり面白いし、今売れっ子の彼女の妖艶なステージングが楽しかった。
 私は97年にウィーン・シュタッツオーパーで、ドミンゴのテノールによる「イドメネオ」を観て大感激したのだが、今回の演奏を聴いて是非ハーディングによる全曲を聴いてみたくなった。

 さて、最後に交響曲38番"プラハ"。とかく聴き過ぎているこの曲が、これほど新鮮に思えるとは大変うれしい驚きだった。特に2楽章は素晴らしかった。古楽器派特有の早いテンポのアンダンテ楽章(へんな文章?)だが、これだけ歌い抜いてくれれば文句はない。そしてウィーンの音色の素晴らしさをこれほど堪能したのも久々だった。
 ただ、3楽章ではとっても貴族的な気品があったのは良かったが、少し優等生的でもあった。テンポも早い割にスピード感が持続せず、もっとワイルドにエンディングに向かって畳み込んでほしかった。ちょっと偉そうに言うと、ほんの少しだが今の彼の表現の限界のようなものが見えてしまったように思えた。
 とは言え、オール・モーツァルト・プロで最後まで飽きずに楽しめたのは、ハーディングの才能の大きさによるものだと思ったし、私の心配などいずれすぐに吹き飛ばすほどの成長をきっと見せてくれるに違いない。
 まだ、31才のイギリス人。今後も注目していきたいし、ますます楽しみになってきた。
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by harukko45 | 2006-08-26 03:46 | 聴いて書く

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