ドン・ジョバンニ/エクサン・プロヴァンス

 まいった!最高にイカシたピーター・ブルックの演出、若き(この当時27歳)のダニエル・ハーディングの素晴らしい指揮、歌手達もオケも非常によくコントロールされて、一丸となった水準の高いパフォーマンス。最初の序曲から最後の地獄落ちとエピローグにいたるまで、まったく飽きる事のない、最高の舞台だった。
 2002年7月フランス、エクサン・プロヴァンス音楽祭。オケはマーラー室内管弦楽団。(1月26日NHK-BSで放送)
 
 これまで観た全ての"ドン・ジョバンニ"の中で最高の映像作品と言っていい。いろんな手あかのついた18世紀の古典が、見事にシェイプアップして、現代の最先端作品として瑞々しく生まれ変わったようだ。今まさに書き立てのような新しい音と、巧みな演出の妙にしびれまくりである。
 モーツァルトが生きていて、これを観たら大喜びだったろう。

 まずはダニエル・ハーディング!こいつは強力なイギリス人だ。凄い若者がいたもんだ。今年でまだ31歳なのか。これからのヨーロッパ音楽界の主役になっていくこと間違いない。(今シーズンからミラノ・スカラ座のシェフですか、すごい。)
 しかし、この若さでよくここまでオペラの隅から隅まで神経の行き届いた指揮ができるものだ。マーラー室内管弦楽団はモダン楽器のオケだが、聴けばすぐわかるように徹底的に古楽器風に演奏している。それが、ちっとも嫌みでない、それどころか極めて新鮮な響きであり、ワクワクドキドキさせられるのだ。
 テンポは全体に快速だが、無味乾燥なことなど一切ない、情緒的な歌心の面も十分満足させてくれる。ノリの良さが抜群で、歌手を含めたアンサンブルもキリっときまっていて、まさに「現代」のかっこよさを感じさせる。こういうキメどころをビシっとやってくれないと、今のポップスを聴き慣れている耳には不満になるのだが、彼は実にキビシく仕上げているではないか!クールだ。
 古楽器風の演奏だと過去の巨匠のようなロマンティックなものを排して、淡々と進めているように思うが、どっこい彼にはデーモニッシュな感覚もしっかりあって、最初の強姦から殺人のシーンといい、最後の地獄落ちのシーンといい、スリリングでドラマティックな表現と作曲家の内面に迫ろうとする深いエグリ方には久々に大満足の気分を味わうことが出来た。

 そして、イギリス演劇の重鎮ピーター・ブルックのさすがと思わせる演出には敬服した。舞台には椅子と棒ぐらいの道具しかないシンプルなもの。だが、この使い方、見せ方ひとつひとつがすべて示唆にとんでいて、オペラの流れの中でたいへん綿密に練られていた。観ている方はいつの間にか、まったく自然に舞台にひきつけられ、音楽もじっくり堪能できるのだった。
 具体的な背景のない抽象的な世界に、出演者もカジュアルな衣装で登場することで、どのような素性で、どの時代の話なのかも見えない。だが、そのことによって、モーツァルトの"ドン・ジョバンニ"の核心部分を「絵」としてシッカと見せてくれたように思う。
 それも押し付けられるような「頭でっかち」ではない。なぜなら、音楽としっかり共鳴しあって舞台に血の通った演出がなされているからだ。これはまさに驚異の名演出だと言えると思う。

 そして、"ドン・ジョバンニ"は紛れもないモーツァルトの大傑作であり、現代においても人類の宝であることを見事に証明してくれた。大絶賛!!
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by harukko45 | 2006-02-13 00:00 | 聴いて書く

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