コシ・ファン・トゥッテ/リンデン・オーパー

 先月27日にNHK-BSで放送されたベルリン国立歌劇場(リンデン・オーパー)による"コシ・ファン・トゥッテ"を観た。指揮はダニエル・バレンボイム。演出はドイツを代表する(らしい/観たことないので)女流映画監督のドリス・デーリエで、18世紀のオペラ・ブッファを60年代後半の感覚でラブ・コメディとして表現していた。(2002年9月の収録でDVDにもなっている)

 が、私にはこの演出は最悪であったとしか言えないな。やたら仕掛けや小道具が多くて大変ウザったく、また歌手がアリアを歌っている最中でもコマコマした動きがついていたりして、ちっとも音楽に集中できなかった。
 また、それ以前に姉妹役の歌手がかなり太めで、けっしてスタイルがいいとは言えないのに、わざわざ似合わない60年代風のミニスカートをはかせたり、恋人役の男性二人は軍人で戦場に行くという設定なのに、スーツ姿で長期海外赴任のように見せ、その後アラビアの貴族に化けて現れるのをヒッピーとして登場させるのも無理があって少々シラケてしまった。

 とにかく、演出過多でたいへんうるさい舞台で、こういうことがやりたいなら音楽はロッシーニさんに書いてもらった方がいい。モーツァルト君では音楽の陰影が深すぎるのだ。そもそも、単調で退屈になりやすいストーリーを音楽でいろいろと展開して持たせていたオペラだから、元々かなり雄弁な音楽なのだ。だから、そこにやたら付属物を加えられるとあっちこっちに気が散って困る。お願いだから、じっとして歌っててくれー!俺は聴きたいのだ!
 最後には、舞台とモーツァルトは完全に遊離したような感覚になり、非常に虚しく音楽が鳴り響いておりました。それも、バレンボイムがやけにご立派にオケを鳴らそうとするので、ますます虚しさが深まった感じだった。
 バレンボイムはピアニストとしては大変素晴らしくて大好きなんだけど、指揮したときの音楽には今まで感動したことがない。この人は本当に指揮が合ってるのかなぁ?ものすごい才能の持ち主で尊敬に値する音楽家だとは思うのだが。

 "コシ"のストーリーを簡単にまとめますと、姉妹の恋人である二人の男が、友人の老哲学者(?)の口車にのって、それぞれの相手の貞節を試すために、変装して別人となりお互いの相手を口説いたら、なんと二人とも1日で心変わりしてしまった。なんてこった!いやいや「女はみなこうしたもの」(コシ・ファン・トゥッテ)、最後は女性陣が許しをこうてハッピーエンドに?いやいやなかなかそうはいかないよ、ジャンジャン!

 正直この筋は荒唐無稽で、「んなわけないやろ!チッチキチー」の典型のような内容だから、とりあえず終始ドタバタやっていくしかないのだが、昔は単にハッピーエンドだったのを、最近は「もし当事者だったら結構キツイくない?」的な含みを持たせて、裏を返すと「かなり怖い」感じに仕上げるようになっている。でも、それはダ・ポンテの台本に書いてあったのではなく、モーツァルトの音楽がそう聴こえるからに他ならない。
 このオペラを作っていた頃、彼は知人に借金の申し入れの手紙を何度も書いているし、また妻の不倫疑惑に苦しんでいたらしい(彼は旅先から妻にもたくさんの手紙を書いている)。それに、そもそも彼はアロイジアとコンスタンチェの姉妹に恋をし、姉にふられ妹と結婚しているわけだし、そういうことを音楽に全部盛り込んで一気に浄化してしまおう(お互い許し合おう)ということだったのだろうか。それは少し深読みすぎるかな?

 現実の生活が極めて苦しい状況でも、音楽制作においてはとことん「美」を極めてしまうのが、モーツァルトという人の興味深いところであり、そして彼の音楽は私に、「美」というものは実は一般に考えられているよりも「遥かに美しくも愉快でもないもの」(小林秀雄)ということをまさに教えてくれるのであります。
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by harukko45 | 2006-02-12 01:30 | 聴いて書く

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