ジョン・レノン スーパー・ライヴ2012の詳細(5)

(4)からの続き。

 松下奈緒さんを迎えて Woman

 松下奈緒さんも、スーパー・ライヴに初登場。近年の、彼女の多方面に渡る活躍ぶりには目を見張るものがあるが、音楽家として、このようなポップスのイベントに参加してくれるというのは思いも寄らなかった。
 制作側からの「"Imagine"のイントロでピアノを弾いて欲しい」というオファーが、クロージングでのソロ・ピアノに発展し、さらに「"Love"のインストゥルメンタル」と「ボーカリストとしてのパフォーマンス」へと広がっていった経緯は実に興味深いのだが、何はともかく、これらの大役を一人で難なくやりとげてしまったアーティスト・パワーには、大いに賛辞の言葉を贈るべきと思う。

e0093608_16393815.jpg ここでは、私が関わった"Woman"について書いていきたい。
 松下さんが歌うために選んだこの曲は、冒頭の"For The Other Half Of The Sky."というジョンの囁きが示すとおり、「空のもう半分のために」=「女性のために」歌った曲であり、これを女性が歌うのは、少々違和感を感じるものの、「自立した女性」として同胞に敬意を捧げるという意味にとらえることも可能かもしれない。

 ただ、私が今この曲について感じるのは、女性に感謝するジョンのやさしさ、ではなく、やはり、複雑で簡単には見えてこないジョン・レノン、である。彼は確かに、「Double Fantasy」前の5年間を主夫として堂々と生きていたが、同時に、そのように「演じていた」彼も見える。
 これまで取り上げてきたジョンの曲を振り返れば、彼がロックンローラー、ソウル・シンガー、吟遊詩人、前衛芸術家、反戦運動家などなどを、どれも「それっぽく」演じながら、なおかつ、それらの専門家を凌駕するほどの「本物」になってしまう天才であることに気づく。
 だからこそ、彼はキリストもブッダもマハリシもボブ・ディランもビートルズも信じない、と言いのけてしまうのだ。

 "Woman"の歌詞では、「自分の思慮のない複雑な気持ちを表現できない」と始め、サビは「Oooh, well, well...」となる。もじもじして言葉が出ずに、甘えるようなポーズで許しを求めているようでもある。だって「結局、僕は生涯君に恩がある 」のだから。
 2コーラス目では、「小さな子供が男の心の中にいるってこと」「僕の人生は君の手の中にある」「結局そういう巡り合わせなんだよ」と悟り切ったように、彼得意の「ダメな男」宣言が続く。で、このサビでも言葉にならない。

 突然半音上に転調するという、古風でありながら効果的な手段で歌われる3コーラス目では、少し積極的で、「どうか僕に説明させて」「決して君を悲しませたり苦しめたりするつもりはなかった」と弁明。そして意を決したかのように「だから何度でも言おう」、ついにサビは歌われる「愛してるよ・・ 今も、そして永遠に 」と。

 これまでの人生を振り返りながら、共に歩んできた女性への讃美と感謝を示した曲との解釈が普通だろうが、「ただ、ゴメンって謝ってるだけさ」って、うそぶいているジョンの顔も見えないだろうか。

 ジョンのもう一つの側面は、彼がすごく有能なプロフェッショナルであるということ。ジョン・レノンは「夢想家」でありながらも、(例えば"Imagine"に)「砂糖をまぶす」ことが出来る人物なのだ。それは、「売れなくては意味が無い」ということをきっちり理解している証拠。
 「Double Fantasy」での整理整頓されたサウンド作りや、ソフトで抑制されたボーカルは、完全に時代の方向性を意識しているし、ジョンの曲だけを取り出して聴いていくと、AORの名盤としても十分に評価できると思う。
 このアルバムは、ジョンの突然の死で「遺作」という称号を得て、それまでのソロ作以上の成功をおさめることになったが、もしそれがなかったとしても、「プロデューサー」ジョンが作った「ニュー・ジョン・レノン」は間違いなくヒットしていたに違いない。

e0093608_17245268.jpg だが、どうしても「砂糖のいっぱいかかった」ジョンが嫌な人(その当時の私)には、行き過ぎぐらいにシェイプされた別ミックス「Stripped Out」が今はあるので、その生々しいジョンにいつでも会えることになった。

 さて、今回はキーがEからA♭に上がったので、ギターのおいしい響きはかなり失われるものが大きく、それをキーボードでカバーした。十川さんがエレピで土台を支え、私はまず、曲全般に入っている3声のバック・コーラスを再現するために、サンプリングの「Woo」と「Ah」をペダルで切り替えながら演奏し、他にもオルガンやピッチカート、高い音のストリングスを弾き分けた。よって、糖分は多めだ。
 また、サビでは押葉、古田、私の3人でハモを付けて、厚みを出すように試みた。リハ始めではキーの違いに戸惑ったものの、本番では押葉くんのファルセットでの頑張りもあり、最終的にはカロリー・オーバーせず、綺麗に仕上がったと思う。

 この後、松下さんはピアノに向かい、ヴァイオリンとチェロとのトリオ編成で"Love"を美しく演奏してくれた。

(6)に続く。
[PR]
by harukko45 | 2013-01-03 17:22 | 音楽の仕事

おやじミュージシャン和田春彦の日記でごじゃる
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31