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大橋純子/夏の陣(3)

夏の陣(2)からの続き。

 m3.たそがれマイ・ラブ

 "たそがれマイ・ラブ"をもう少しだけゴージャスにしたい気がした。うーん、ちがうなぁ。もうちょっとミステリアス、というか映画音楽風かな。全体のビート感や自然な流れはそのままに、曲の後ろにある景色をもっと広げてみせたい気分になった。
 具体的には、これまでよりも高い音、これまでよりも低い音、これまでよりも厚みのある音を加えてみたくなった。

 で、リハでは、他のメンバーは同じようにやってもらいながら、自分だけ勝手にいろいろ小細工していた。イントロ、歌中、間奏、エンディングとね。そうすると、勘のいい我がメンバー達は、私のやっている過不足分にちゃんと反応するので、それらを補うようなプレイもしてくる。でも、それだと私の考える意図とは違ってしまうので、自分のやり方がまずいことに気がつく。
 つまり、「変えていいもの」と「変えちゃならないもの」があるわけで、それをちゃんと見極めていかなきゃならないということだった。
 なので、イントロ部分は半分元に戻して、残り半分に木管と金管によるオーケストラ風の音で厚みをつけ、歌中では逆にシンプルなバッキングに徹し、ボサノヴァ・ビートの気持ちよさに任せた。サビ部分では、ストリングスを1オクターブ上げて、女性コーラスとのユニゾンに幅をつけてみた。これは良かったと思う。

 問題は間奏部分。ここは結構イッチャっていい感じなのだが、あくまでフィーチャアするのはゴトウさんのフルートであることは変えちゃいけない。でも、ゴトウさんがいなくて、ソロがなくても成立するようなアンサンブルは作っておきたいじゃないか。
 過去の素晴らしいアレンジャー達の仕事、例えば、A&MやVerve、CTIあたりのイージーリスニング風味のジャズ・アルバムなんかで聴かれるソロイストとオーケストラの関係なんかが理想。ラロ・シフリン、クラウス・オーガーマン、ドン・セベスキー、もちろん、御大クインシー・ジョーンズなどなど。

 もちろん、キーボードだけでそれを目指すのは、多少無理があるのは百も承知。でも、今回は頑張って何とかしたい。

 私が試行錯誤していた部分を聴いていたゴトウさんが、「ベン・ハーみたいだね。」と言った。うむうむ、さすが、するどいご指摘。そうなんですよ、そういうスケール感もありながら、もうちょっと洗練させた感じにならないものかと。

大橋純子/夏の陣(3)_e0093608_2336420.jpg大橋純子/夏の陣(3)_e0093608_23361019.jpg 前記のアレンジャー達の音以上に憧れるのは、マイルス・デイビスのアルバムでのギル・エヴァンスの仕事。「Porgy And Bess」とか「Sketch Of Spain」ね。こういうものは、ちゃんと学校に行って勉強してこなきゃいけない部分もあるし、元々才能豊かな人なら、自ら音を細部まで聞き分けて再現できるだろうが、私のような感覚だけの人間は、「あのイメージの、こんな音」って調子だから、大外れと大当たりの繰り返し。まぁ、ずっとコツコツと探してきた人生だからしかたがない。

 "たそがれマイ・ラブ"モカ・ジャバ・バージョンの間奏部分は、元々ケンさんが作ったもので、二つのマイナー・コードの繰り返しなのだが、バッキングでは4度の響きがするフレーズがあり、その締めにも4度使いがあって歌に戻る。その効果で、ここにはモード・ジャズっぽいムードも感じられる。だから、「Porgy And Bess」でのマイルスのソロ部分を思い出したのかも。

 マイルスがこのレコーディングの時、ギルから渡された譜面にはコード・ネームがなかった。そのかわりに、音階(モード)が書かれていて、それに使ってアドリブするように言われたとのこと。ギルは、マイルスをコードから解放し自由なアドリブを引き出したのだ、というのがジャズ界の伝説・定説だが、まぁ、そこまでカッコイイ物語だったのかどうかはわからないけど、実際の音は最高にクールなので、全く文句ないです、ハイ。



 で、"たそがれ"の場合は、二つのマイナー・コードを、それぞれドリアン・モードなり何なりに読みかえてみるって感じ。はっきり言って、そんな大層な事じゃないんです、今の音楽世界においては。昔のジャズ界(特にジャズ・メディア、評論家筋)では、すごく崇め奉られていたことなんだけど。

 ちなみに、ピアノがあったら、左手でDm7(レ・ファ・ラ・ド/レ・ソ・ドとかでもいいけど)を押さえて、右手でCのスケール、つまり白鍵のみ(一応、基音はDになるので、レミファソラシドレ)を使って、適当にパラパラやってみてください。それでDドリアンになりますよ。もし、少しジャズの感覚が分かっている方だったら、右手と左手をできるだけくっつけて、すべて白鍵のみを押さえて適当に動かしてみてください。昔、タモリがやっていた「誰でも出来るビル・エヴァンス」になります。

 と、まぁ、本当にたいした話じゃないんだけど、私は最終的にイントロで使ったオーケストラ・ブラス音で、横向きの動きにハモをつけながらやってみた(コード分解だと縦方向の動きって感じ、スケールは横方向?)。「ベン・ハー」風(私としては「アランフェス風」)のフレーズも残した。
 とは言え、あくまでこれはバックで、主役はゴトウさんのフルート。彼にはとても繊細で自由な感性があるので、私の思惑などは軽く飛び越えてしまうから、結局はフルートの後ろが暑苦しくなっただけだったかもしれない。

 その分、ケンさんからの提案で、エンディングを短くしたので、こちらはスッキリした形になったと思う。

 m4.大人の恋をしましょう

 続く"大人の恋をしましょう"は、けっこう個人的には好きな曲で、とにかく、上手に仕上げたい気持ちが一番強い作品。今年は、もっとゆったりとしたノリの中で、サロン・ミュージック的なムードを作りたいと思った。
 サロンというと、ヨーロッパの宮廷音楽や室内楽のイメージが強いが、ジャズにもMJQのような音楽がある。モダン・ジャズ・クァルテットはまさにサロン風ジャズの最高峰、これほどまでに典雅で気品にあふれたジャズってどこにもない。それに、ちゃんと頭使ってグループとしての音楽をコントロールしつつも、ジャズの醍醐味やカッコ良さを失っていない。
 と同時に、エレベーター・ミュージックみたいな妖しさ・いい意味での軽さもあると思う。



 エレベーター・ミュージックっていうのは、要はBGMのこと。ホテルやスーパーなんかで流れてるやつや、劇や映画、芝居なんかの付随音楽なんかも含んでもいい。そういうことなら、人類史上最も使われているエレベーター・ミュージックの作曲家はモーツァルトで間違いない。

 ちなみに、アメリカの人気ドラマだった「Sex And The City」のテーマ曲って、チョーかっこいい。この辺はゴトウさんと意気投合したんだけど、あのカッコよさとアヤうさ、インチキ臭さって実にオイシイ。ラテン・ビートの中で、ピアノとヴァイブとサックスの絡みが最高だった。



 とにかく、私はヴァイブの音が大好きなんだ。それって、MJQのせいと、ビーチボーイズのブライアン・ウィルソンがこれまたヴァイブの使い方が素晴らしかったせい(彼は他にも思いがけない楽器を使い分ける天才)。



 そして、ジュンコさんの"大人の恋"にもヴァイブが入っているのだが、これまではピアノとストリングスを中心にプレイしていたので断念していた。が、今回は是非とも加えてみることにしたわけで、ペダルを使って抜き差ししながら、ピアノに重ねる形で演奏した。一応、ピアノの音も他の曲よりも抑えめなトーンにしてみたし、もう一台の方でフルートを設定して、ゴトウさんとハモるのは変わらずだ。名古屋においては、そんな形での演奏だった。サウンド面ではある程度満足していたが、私が遅くしたいイメージでありながら、自分の入りのテンポが不安定で、バンド側には動揺が伝わったようだ。

 その後、ウエちゃんがこの曲のアプローチにおいて、フランク・シナトラのディナーショウをイメージしていたのがわかり、それもなかなか好ましい趣味だったので、曲の後半はゴトウさんのサックス・ブローも含め、じょじょにゴージャスな方向性になった。
 となると、それまでの私のアプローチだと、若干シブすぎていたように思い始めた。いいタイミングで、ケンさんから、ストリングスの広がりが欲しいとのリクエストがあり、もう一度、CDにあるような感じに戻すことにした。

 大阪では、ペダルの上げ下げでヴァイブとストリングスを同時に動かすことになったので、スムースさがなくなって、少しバタバタしてしまった。後々よーく考えてみると、冷静にうまく組めば、二つの音色をもっと的確に上げ下げ出来ることに気がついたのだが、時すでに遅しだった。東京では、何とかバランスを取ったが、もうちょっとだったなぁ。でも、この曲はもっと良くなるはず。

夏の陣(4)へ続く。
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by harukko45 | 2012-08-16 23:54 | 音楽の仕事 | Comments(0)

おやじミュージシャン和田春彦の日記でごじゃる


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