大橋純子/クリスマス・ディナーショウ2011
2011年 12月 23日
リハーサルの段階で、ジュンコさんをはじめ、メンバーからも好評だったので、今回はこの形で演奏することになったのでした。個人的には、なかなかリスキーな部分もありましたが、それなりの準備をすれば、ちゃんと対処できると思い、あえて挑戦した次第です。
もちろん、本当のベーシストのようにはいきませんが、他のメンバーが少しでも通常に近い形でのプレイが出来るようにサポートすることはできたように思っています。
千葉ミラマーレ(17日/昼夜2回)とタウンホール船堀(19日)のセット・リスト:
m1.星に願いを(When You Wish Upon A Star)2.たそがれマイラブ 3.大人の恋をしましょう 4.時代 5.季節の中で 6.地上の星 7.シルエット・ロマンス 8.愛は時を越えて En1.White Christmas 2.You've Got A Friend
さて、肝心の内容の方ですが、バンドの編成が小さいのと、クリスマス向けのディナーショウということもあり、リズムを強調した楽曲は控えられました。その分、じっくりとバラード中心にジュンコさんのボーカルを楽しんでもらうということですが、その意図は十分に達成できたと思います。
当日録音したプレイバックを聴くと、全体のサウンドに統一感があり、すっきりして落ち着いたムードで、個人的にも好感の持てるものに仕上がっていました。これは、とてもうれしかったことです。
これは、オープニングにやった"星に願いを(When You Wish Upon A Star)"が、その後の流れにもいい影響を与えていたからではないか、と思っています。
誰もが、どこかで聞いた事のある、あまりにも有名なアメリカのスタンダードである"星に願いを"は、それこそあまりにもたくさんのカヴァーを生んでいますが、ミュージカル風、ジャズ風、どんな形でやろうとも、元の楽曲が偉大なので、それなり成立してしまうでしょう。
ただ、そのアプローチの仕方で、歌い手側のセンスが問われることになります。
今回、ジュンコさんが選んだのは、リンダ・ロンシュタットが80年代に作ったスタンダード集「For Sentimental Reasons」に収録されていたバージョン。私は、これを資料としてもらった時点では、誰が歌っているのかわかりませんでした。が、メロディをほとんど崩さずに、きちっと、そしてゆったりした歌い方が、実に自然で好ましかった。それに、バックのアレンジのシンプルでありながら、気の利いた配慮と工夫に唸ってしまいました。
それも当然で、アレンジ担当のネルソン・リドルはナット・キング・コール、フランク・シナトラをはじめとするビッグ・ネーム・シンガー達の名編曲で知られる巨匠ですから。おっと、TVの「バットマン」の音楽もね。
私は、ウエストコースト・ロックの歌姫だったリンダ・ロンシュタットがかなり好きで、アルバムも何枚か持っていたし、来日時にはコンサートにも行ったのですが、その彼女が、1983年にいきなりネルソン・リドルのアレンジで、スタンダード集「What's New」をリリースした時は、かなり驚きました。でも、この「What's New」は良かった。当時MTVで流れていたビデオも良かった。だから、最初の困惑もすぐに消えたのです。
このアルバムはトリプル・プラチナの大ヒットとなり、その後の若手ロック・ポップ系シンガー達のスタンダード・アルバム・リリースへの先鞭をつけたことになったかと。で、ものすごく売れたから、続編「Lush Life」が出るのはわかるとして、実は3作目まで出てるとは知らなかった。正直、当時はニューウェイブ全盛の時で、スタンダード集をじっくり楽しむなんていう心の余裕はなかったのでした。
また、ネルソン・リドル氏は、85年にリンダとのコラボ3作目「For Sentimental Reasons」制作中に亡くなられたので、彼の最後のアレンジメンツ3曲は彼自身の指揮ではなく録音され、翌86年にリリースされたのです。これが彼の遺作であったのでした。そういったことも知らずに、このアルバムをずっと無視していたことが、今は恥ずかしいです。
そして、今回初めて聴き、全2作と比較して、このラスト・アルバムこそがリンダ&リドルのベストではないかと思う今日この頃でありますなぁ。リンダの歌の素直な美しさ、リドルのパーフェクトなアレンジ、そしてジョージ・マッセンバーグのレコーディングとミックスが最高です。すべてひっくるめて「音が良い」のでした。
ですから、ここから選曲してきたジュンコさんのセンスの良さが光るのでありますよ、ウム。
さて、ちなみに、ロック/ポップ系でのリンダ・ロンシュタット作品の中で、私のお気に入りも紹介しておくと、まずは(左から)1974年の「Heart Like A Wheel」1975年の「Prisoner In Disguise」、1976年の「Hasten Down The Wind」が未だに飽きません。この頃はカントリー色もまだ濃かったし、それが新鮮でした。「Hasten Down The Wind」ではカーラ・ボノフの曲が3曲あって、これがまた何ともしびれる。
で、1980年の「Mad Love」は、いきなりパンク/ニューウェイブ路線で、ハード・ロック的でもあったのだが、これがスカっときまっていて、当時はかなりハマったし、いわゆる「ウェストコースト・ロック」のイメージに反抗している感じでカッコよかった。
それに、エルビス・コステロの曲を積極的に(「Living In The USA」でも1曲、ここでは3曲も)取り上げているのも実に興味深かった。この時期、ジェームス・テイラーらとともに来日して、ジョイント・コンサートがあり、喜々として観に行った。
ネルソン・リドル3部作後では、1989年の「Cry Like a Rainstorm - Howl Like the Wind」ですな。ここでもジョージ・マッセンバーグの音が素晴らしいし、ジミー・ウェッブの4曲をはじめとする佳曲がならび、アーロン・ネヴィルとブライアン・ウィルソンのゲスト参加等も最高なのです。ジョージ・ルーカスのスカイウォーカー・ランチで録られたオーケストラが何とも豪華。
これぞ、アメリカン・メインストリームの傑作でしょう。
さてさて、相変わらず脱線の極致ですが、それほど、今回の"星に願いを"は我々に良い効果を与えてくれたのでした。"たそがれマイラブ"からのオリジナル曲、カヴァー曲も、その影響下で一つの流れとしてまとまりました。
とは言え、"地上の星"や"アイトキ"では、バンドが3人しかいなくても、燃えるものがありますなぁ。これは止めようがない。そして、大ラスの"You've Got A Friend"。一応、我々3人のステージ前の合い言葉は「いい気になって、楽しくなりすぎるな!」だったのですが、やはり、演奏する楽しさと興奮を抑えられない部分はどうしてもありました。ただ、それも良しです。
個人的には、無事に3回のステージが終わって、本当に心からうれしく思いました。やはり、シンセベースとキーボードを両方弾くことを決めたからには、それなりの成果を上げたかったからだと思います。もちろん、この形が今後のサウンドではありません。ちゃんとベーシストを入れて、少なくとも4リズム以上でのバッキングこそが、大橋純子さんの音楽への敬意だと信じていますから。
というわけで、今年のジュンコさん単独でのライブは終了。後は25日の松崎しげるさんとのジョイント・ショウを残すのみとなりました。