水越けいこ/オータム・ツアー2011の詳細(1)

 去る10月9日、10日の2日間は水越けいこさんのオータム・ツアー2011の東京公演で、大ラスでもありました。場所は、神田岩本町の「エッグマン・東京イースト」で、渋谷にあるエッグマンとは姉妹店と言えるのでしょうが、渋谷とはうってかわっての、こちらはとてもアット・ホームな作りで、まるでけいこさんが自宅に招いてのパーティ・ライブっぽいムードもありました。

 そういえば、キャロル・キングが2004年に「Living Room Tour」と称して、ピアノとアコギ2本でのコンサート・ツアーをやってましたっけ(コチラ)。彼女の場合は、オープニングから「私のリヴィング・ルームにようこそ」って歌ってたけど、我々は、そういったことを特別意識してたわけじゃないんだけど、ツアーしながら各会場を回って行くうちに、ファンの皆さんや会場のスタッフとの間に、和気あいあいとしたムードがじょじょに生まれてきて、すっかり和んだ空気が出来上がったって感じでしょうか。

 ちなみに、当初はギターをもう一人入れた編成もアイデアとしてありましたが、今回は断念。そのかわり、ある意味「原点回帰」的な気持ちを持てたことでは、私と田口くんとけいこさんという3人ユニットで貫いたことが良かったと思っています。最低限度の人とサウンドで頑張ってみると、いろいろと音楽的な部分で見えてくることも大きいのでした。それは、今後にたくさん役立つことになるでしょう。

 さて、コンサートは二つのパターンがあり、それぞれの核みたいな部分は一緒ですが、7曲ほど入れ替えた内容となりました。1部は横浜、名古屋、大阪/昼、東京/昼、2部は京都、大阪/夜、東京/夜でやりました。

 で、セット・リストにそって、曲やら演奏のことを独断的にこれから語るのですが、1部と2部を並行して進めていくことにします。

 1部/m1.Shampoo 
e0093608_7275087.jpg 85年の「Actress」からの曲で、長沢ヒロさんのアレンジによるアルバムのサウンドは、80年代の明るい空気感にあふれてます。だから、恋の終わりがテーマでも、比較的前向きに受け止めている感じの仕上がりです。
 基本的には、ニューオーリンズ・ジャズやスウィング時代のビッグ・バンド・ジャズと、70年代のマンハッタン・トランスファーあたりがベースになっているわけでしょうが、こういう曲は、今やっても、どんな編成でやっても、意外にすんなりまとまります。そもそも、これを最初に作った時点で、レトロなイメージがあったわけだから、その後の時代性みたいなものにあまり影響されないのでしょう。
 個人的にはとっても忙しいですけど、うまく決まれば、すごく楽しく、燃える曲とも言えます。ただし、あんまり気持ちが前のめりになっていると、リラックスしたジャズ感覚が薄れてしまいます。その辺はいい加減に大人にならなくちゃね。

 ところで、「Actress」に含まれる曲は、比較的ライブで取り上げられることが多い気がします。今回も4曲がピックアップされていますし、私の過去の記憶でも、"シンガポール"以外の全曲を演奏したことがあります。確かにアルバム自体の出来が良いと思うし、初期の代表作よりも、肩の力を抜いて楽しめる、いい意味での「軽やかさ」があると思います。

 m2.Bayside Court

e0093608_86281.jpg 82年の「I'm Fine」は、何と言ってもTOTOが全面的にバックを担当したことで、大きな価値を持つアルバムなんですが、この"Bayside Court"に関しては、スティーブ・ルカサーが「ブルーズは弾けない」と辞退したという曲。かわりに登場したのがダン・ファーガソン氏で、彼はこの時期L.Aのスタジオ・ミュージシャンとして売れっ子の一人。TOTOのメンバーとは70年代初期から交流があったみたい。
 例えば、73年のソニー&シェールのライブ・アルバムでのクレジットには、ジェフ・ポーカロ(Ds)、デイビット・ハンゲイト(B)、デイビット・ペイチ(Key)にギターがディーン・パークスとダン・ファーガソンとなっております。(これは、ジェフ・ポーカロのファン・サイトで見つけたもので、私も初めて知りましたし、アルバムも未聴です。この時、ジェフは19才。)

 で、この曲でのダン・ファーガソンのアコギ、実にいいっすね。それに、けいこさんのボーカルもいいんですね。また、歌詞が戦後間もない昭和のイメージで、「メイドの仕事は辛いだけよ」にやられるわけよ。ただし、青い目のMrs.が登場したり、ダンスパーティも出てくるから、日本に限定せずに、アメリカ南部の黒人女性達も想起できる。とは言え、けいこさんの声と節回しが、すっごく「日本」を感じさせるので、そこにいかにもアメリカ的なブルーズとのミックスがほんとに面白い仕上がりだと思うのでした。

 田口くんは若いくせに、オジサン臭いブルーズ系のロックが得意ですから、この手の曲は水を得た魚ですな。もう一人、ギターがいればスライドのソロも再現できたでしょうね。これは、またの機会に。

 m3.ナタリー

e0093608_97212.jpg 89年の「Dramatically」に収録された"ナタリー"はスタジオ・テイクの感じをいい意味で裏切って、今のけいこさんと、今回の2人編成のバックにうまく合わせられたかな、と秘かに喜んでいる1曲です。
 元々の森園勝敏さんのアレンジは、思いっきり「The Police」的で、エフェクティブなギター満載なわけで、まぁ、小さな編成でやる時には、こういうロック・サウンドが一番困るんですが、キーをぐっと下げて、全体に抑えめなムードにしてみたら、なかなか良くなったと感じました。それと、ディレイの効いたエレキがやっていたパターンは、アレンジの芯になる部分だったので、それをあえてピアノでやったのも正解だったようです。

 さて、2部ではオープニングの3曲がごっそり入れ替わりました。

 2部/m1.ブルースカイロンリー〜2.カーニバルの終りに

e0093608_9321461.jpg 1部のジャズ&ブルーズ系の始まりとはうってかわって、いきなりの"ブルースカイロンリー"はファンの方々も「おっ」と思ったのでは。おまけに、アルバム「Like You !」と同じ順番で"カーニバルの終わりに"につなげたのだから、「おいおいちょっと出番が早いんじゃないの?」と思った方もいるかも。私もそう思いましたし。
 とは言え、この「Like You !」は良いアルバムです。「Aquarius」にも負けない内容の傑作ではないでしょうか。その「Aquarius」で自信をつけた、けいこさんの曲作りと歌が何より良いのです。このアルバムでは伊藤薫さんの曲がなく、すべてけいこさんのオリジナルとなった最初の作品であることも興味深いです。そして、それをうまく生かしたアレンジャーの佐藤準さんの力も大いに讃えたいですね。
 このアルバムでは全て彼のアレンジなので、そういった意味では、サトジュンさんの個性的な仕事ぶりも十二分に楽しめるのです。

 "ブルースカイロンリー"は一見(聴)ごく普通のロックンロールなのですが、さすがサトジュンさんはSmoky Medicineですわ。随所にいろいろ凝っているんです。それに、89年のインタビュー記事では「レオン・ラッセルやジョー・コッカーが今でも好き」って言ってますからね。曲全体のグルーヴ感がかっこいいんです。とにかく、ちゃんとロックンロールしてるって仕上がりが、いいなぁと思うわけです。

 "カーニバルの終わりに"もかなり充実した出来です。こんどはラテンですが、「ブラジル」と「キューバ」の混じった感じに、フュージョンぽいアプローチでタイトにキメルっていうのが、この当時の日本のポップ・ミュージックの特徴でもありました。
 で、スタジオ・テイクはブラス、ストリングス、パーカッション、シンセに、コーラスと実に豪華で完璧なのですが、これを二人でやるなんて、ヒメよ、何とごむたいな。
 去年やった時には、打ち込み使いましたっけ。でも、今回は意地でも人力でやり倒すことにしました。結構、燃えるんですね、こういう時。

 それと、元のアレンジがしっかりしていると、その骨組み部分だけをピックアップするだけでも、ちゃんと成立するものです。要は、どこを取り出して、どこをカットするかの見極めさえ間違わなければ、「良い物は良い」ということになると思います。ただし、この曲はおいしいとこだらけなので、だいたい聞こえてくるフレーズや仕掛けはそのまま弾くってことになりましたけど。
 パーカッションもなしで、よくやるわ、とも冷やかされそうですが、それでもかなりイケてたと思います。多少荒っぽい方が、面白かった時もありましたしね。
 
 m3.ふりむけばLoneliness

 再び、「Actress」より。アレンジは萩田光雄さんで、ツボを心得た名人ならではの出来です。面白いのは、A・Bメロに入っているシンセのアルペジオは、さりげなくて控えめなバランスなのですが、意外に効いているのです。どうやら、この音はけいこさんの持っていたシンセだそうで、「これじゃないとダメ」と、わざわざ選んだあたりがニクい。

 曲は、けいこさんらしい「泣き」が魅力ですが、やはり「Actress」の持つ軽やかさが、適度に毒抜きしているのでした。これが、時代の空気感も一緒にパッキングしているレコードの楽しさ、面白さです。
 ただし、これは前の時にも書きましたが、今ならもっと哀感を強調したいなと思う部分も。特に二人だけのバックでやるので、そういった思い入れはより強くアピールしてもいいかと感じています。
 
 続く。
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by harukko45 | 2011-10-14 10:55 | 音楽の仕事

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