大橋純子/クラブサーキット2011詳細(10)

詳細(9)からの続き。

 m8.愛は時を越えて

e0093608_22223858.jpg ここ数年、ジュンコさんのライブでの本編最後は"アイトキ"がキマリになっている。我々がやっているのは、2009年リリースの「Terra 2」での泰輝さんアレンジによるピアノ・ダビング・バージョンを元に、通常のバンド・スタイルにするべく、その年のクラブ・サーキット用リハーサルで作り上げていったもの。プロデューサーの佐藤健さんのアイデアを実際に音にしながら、いろいろ手直しを加えていったものだ。

e0093608_22595650.jpg その前までは、当然ながら、92年に大ヒットした、重実徹さんアレンジのオリジナル・バージョンを多く演奏していた。私が「チーム大橋」に復帰したのも、この曲がヒットしてから数年、といった時期だったから、ほとんどのライブで本編最後、もしくはアンコールでの演奏だったと記憶する。

 この曲がヒットした頃と言えば、当時の政府・日銀の失政(90年、遅すぎた総量規制、金融引き締め)による急激なバブル崩壊が始まっており、92年には東京佐川急便事件に始まる金丸信議員の失脚・辞職・逮捕、経世会の分裂、小沢一郎議員らによる新党結成、93年には細川政権誕生で、自民党が下野したものの、細川、羽田の短命政権、社会党離脱により、自社さ政権の誕生という大混乱の時代。
 信じられないことだが、ここ最近の政治状況と同じようなことが、あったのだ。そして、あれから約20年間は「失われた20年」となってしまった。
 
 なんと"アイトキ"が歩んできた年月の不幸だったことか。我々日本人は、この20年間、たくさんのものを失った。それは、単なる財産や資産の価値だけでなく、自信や誇りや希望さえも揺らぐような喪失感の中で過ごしてきたと言っても、言い過ぎではない。
 そして、今年、3.11。

 私は今回、"愛は時を越えて"のイントロを弾くたびに、その響きが、鎮魂の鐘のように思えてしかたがなかった。あまり、そういうことを意識しすぎないように心がけていたつもりだったが、いざ、あのフレーズと和音が鳴ると、自然とそのような思いになったのだった。
 その後も、音楽に夢中になっていたとは言え、心のどこかに鎮魂と哀悼の思いが常に置かれていたように感じる。

 芹沢類さんによる歌詞は、最初から大きな世界観を持って、このように作られていたのかは定かではないのだが、たとえそうであろうと、なかろうと、やはり時代が詞と曲をじょじょに育て、より深い意味を聴き手に感じさせるものなったことは確かだと思う。
 歌い手である、ジュンコさんが自ら強く、それを意識していることが一番大きい。ある意味では、ジュンコさん自身が伝えたい意味を深めて、曲を育てた、という事だと思う。

 私も、この曲への印象は90年代とは一変した。バブル時代の名残りをどこか感じさせるオリジナル・バージョンから、今のテラ・バージョンへの変遷はかなり興味深い。
 実は、この曲にはたくさんの別バージョンが存在するのだ。

 ①92年シングル・バージョン、②93年のアルバム「ミスセレナス」収録のリ・ミックス・バージョン、③同じく「ミスセレナス」収録の重実徹さんによるピアノ・インストゥルメンタル、④93年の9月リリースの「ネオヒストリー」収録の井上鑑さんアレンジによるストリングス・バージョン、⑤2003年のミニ・アルバム「June」収録の私のアレンジによるウィズ Dr.K・バージョン、そして、⑥2009年の「Terra 2」バージョン、計6種類を現在聴くことができる。

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 ①は音数も多く、シンセのサウンドやディストーションのギターがこの時代っぽく感じられるが、やはりヒットするための強さを持っている。テレビ局からの要望が多く、現場ではその対応にストレスを感じたとの話を、コーディネーターの人から聞いたことがある。だが、その苦労が実を結んで、ヒットにつながった。間奏のギター・ソロは堀越信康くんで、彼とは若い頃にずいぶん一緒に仕事した。クレジットの表記を見て、すごく懐かしく思ったのだった。

 ②は①と同じ音源であり、その違いは微妙ではあるが、よく聴きこむと、二人のミキサーがそれぞれ何を主張したいのかが、じょじょに見えてくる。リ・ミックスは中山大輔さんで、私が大いに影響を受けた人で、かつての飲んだくれ同士でもある。彼はちょっとしたところで、やんちゃしている。本人はいたって大真面目ではあるが。

 ③は完全なるインストだが、名手である重実くんに、これほどシンプルに弾かれると、逆に聴き手の方がいろいろ思い入れを込めてしまう。彼とは、20代前半の頃によく顔を合わせる仲で、その当時から強力にうまくて、とても頼もしい存在だった。

 ④は井上さんのアレンジが美しい。純音楽として素晴らしいと思う。曲が進むにつれて①以上にドラマチックになるのが井上さんらしい。井上鑑さんは、もちろん日本を代表するアレンジャーであり、その楽曲の中に自分の主張を必ず入れ込むことにも長けている。そこが、彼のアーティスティックな一面だろう。

 ⑤はこの中で一番素朴だが、徳武弘文さんのアコとエレキ両方のギターが素敵で、フレーズ一つ一つに愛があり、彼の人間性と同じく、とっても優しさに満ちている。この時のベースは六川さんで、私と3人だけで演奏した。ドラムスはRecycleで作ったものだ。
 徳武さんが、ジュンコさんの仮歌の凄さに、少し緊張していたのが印象的だった。でも、その時録ったマーチンのアコギの音は、本当に素晴らしかった。

 ⑥は泰輝さんのピアノが凄いということに尽きる。たぶん3回ぐらい重ねていると思うが、実に緻密でありながら、かなり豪華絢爛でもあると思う。彼は一人だけで、どんな形でもやり遂げることが出来るだろう。その才能には脱帽だ。

 もしも、"アイトキ"が好きな人、それどころか、ぞっこん惚れ込んでいる人は、一度、これらのテイクを順番に聴き進めてほしい。私はそれをやって、何とも不思議な気分になった。正直、どれがいいとか、ここがイマイチ、といった話ではない。歌自体が持っている不変の意志とも言えるものが、どのテイクにも貫かれていることに気がつき、そして、バックのアレンジ、演奏には「それぞれの時」「その時の空気」が刻まれている、ということ。

 正直、この曲のように、印象が年月とともに大きく変わって行ったものを、私は他に知らない。

 ジュンコさんが「ネオヒストリー」のライナーノーツで、この曲について書かれている文章が素敵なので、勝手に引用させてもらう。
「この曲には、いろいろな逸話があり、生、死、門出と、どの場面にも不思議とフィットする多面性を秘めています。私にとっては、まさに新しいスタッフとの出会いがあり、新たなる門出であり、人を信じるという強さを知り、期待されるという大きな自信を持てるきっかけとなりました。
 これからの歌手生活における第2の扉は、まさに開いたところ。これまでの道を振り返りつつ、未来への道を再び、ゆっくりと1歩づつ歩んでいこうとしています。
 "希望"を私の道づれとしてネ・・・」


 さて、"アイトキ"を演奏し終わると、私個人は数秒ほど茫然としてしまう。一呼吸置かないと立てない感じだが、無事に終えることが出来て、常に大きな満足感も味わってもいるのでした。そして、会場からの暖かい拍手には、心から感謝しています。本当にありがとうございました。
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by harukko45 | 2011-09-24 01:30 | 音楽の仕事

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