大橋純子/クラブサーキット2011詳細(8)

詳細(7)からの続き。

 m7.Disoco Medley_c.Fantasy

 じょじょに"Fantasy"に近づきます。
 
 チャールズ・ステップニーという大参謀を突然失ったモーリス・ホワイトのショックは大きかったと思う。だが、まさにトップスターの道を歩んでいるEW&Fに停滞は許されない。すぐに、ステップニーに代わるアレンジャーが必要になる。ここで、指名されたのは、再びシカゴ人脈からの人選で、Tom Tom 84(本名トム・ワシントン、「Tom Washington」「Tom Tom Washington」の名義でのクレジットもある)である。

e0093608_18205410.jpg 彼のことは当然、77年の「All 'N All」で大々的に知るわけだが、前作の「Spirit」でも、ステップニーの代役としてタイトル曲"Spirit"(フィリップ・ベイリーのボーカルが素敵!)で、アレンジャーとして参加していた。そして、「All 'N All」では、ストリングスとホーンのアレンジをほとんど担当するのだった。
 ただ、ステップニーが、バンドの「父親」「コーチ役」として細部にわたって影響を与えていたのに比べて、たぶん、彼はもっと職人アレンジャー的に関わっていたのではないかと思う。なので、特別に自分の個性を押し出すようなことはせず、もうすでにスター・バンドとなっていたEW&Fにおけるステップニー・サウンドをうまく継承するように、きっちりとした仕事をしていたと感じる。もちろん、これは今だから言えることで、当時は、彼のアレンジがどうのこうのよりも、バンド全体が「すげぇ」で終わっていたわけ。

e0093608_18165844.jpg Tom Tom 84はこれ以降、「アースっぽい」サウンドが売りになって、各方面で大忙しになった。が、その後いろいろと聞いてみると、彼の本質は、やはりシカゴ時代、70年代のザ・シャイライツ(The Chi-Lites)などの、ユージン・レコードによるプロデュース作品にこそ、出ていると思う。というか、個人的に好きってこと。ただし、ここでも裏方としてのわきまえた仕事に徹しているのだが、それが、王道とも言えるサウンドとして、実に好ましいというわけ。
 それにしても今の時期、ユージンの作り出すメローでスイート(ありきたりな表現でスンマセン)なシカゴ・ソウルがすっごく新鮮。こういう音楽も楽しめるようになるなんて、年齢を重ねるのも悪くないって感じね、うんうん。

e0093608_1532771.jpge0093608_1543448.png で、シャイライツのアルバムでは、72年の「A Lonely Man」(左上)あたりから彼の名前が登場し、彼らの大ヒットである"Oh Girl"や"The Coldest Days Of My Life"にも貢献したのだと思われる。もちろん、シャイライツの名作も良いのだが、ユージンがグループを離れてのソロ・アルバム、77年の1st「The Eugene Record」(左)2nd「Trying To Get To You」(右)がなかなかで、今はこちらの方に惚れ込んでいる。シカゴ・ソウルの顔役を前に、Tom Tom 84も大活躍で、ユージンの片腕のごとき存在だ。そしてその中味は、まさに熟練の味とでも言えるかな。甘さでは1st、優しさでは2nd、どっちもヤバくって子供には聞かせられない。ただし、CD化されているのは1stのみだ。

e0093608_4553220.jpg ちなみに、2ndのタイトル曲"Trying To Get To You "は翌78年に女性ボーカリストのヴァレリー・カーターが「Wild Child」の中でカヴァーしてる。このテイクでも、Tom Tom氏がホーン・アレンジを担当し、ベースをヴァーディン・ホワイトが弾いている。こういう発見(?)こそ「レコード掘りの楽しさ」って感じ。内容的には、深さからいけば、圧倒的にユージンに決まってるんだけど、ヴァレリー・カーターが何とも癒される声で、こういうのもタマランってところなんです、ハイ。

e0093608_5511839.jpg ところで、Tom Tom 84は82年リリースされたジュンコさんの「黄昏」にも参加している。ジュンコさん初のL.A.レコーディングで、彼は例によって、ホーンとストリングスのアレンジを手がけ、EW&Fのホーン・セクションが演奏している。他にも一流ミュージシャンが勢揃いで、実に豪華なレコーディング・セッションだ。

 で、各ミュージシャンの演奏はどれも良いし、若きジュンコさんの歌声も素晴らしい。だが、正直、このアルバムは、聴いていて何となくよそよそしい感じがしてしまう。それは、ミックスのせいなのか、楽曲なのか、アレンジなのか、よくわからない。たぶん、時代がそろそろAORやフュージョンから次に進もうとしていたことが大きいような気がする。
 それは、何もジュンコさんやケンさんだけでなく、当時のポップス先進国であるアメリカとイギリスでも起こりつつあった流れだった。今ここで、話題にしているEW&Fでさえ、この時点ですでに帝国の崩壊が現実になりつつあったのだから。

 だから、ジュンコさんは「何かもっと新しいものを」やりたがっているようで、少し持て余しているようだし、ケンさんも日本ですでに十分やり尽くした音楽を、最後にLAのスタジオ・ミュージシャンでやってみた、というムードか。要するに、二人にとって真の海外レコーディングでの冒険は、翌年のニューヨークとなるのは必然だったのだろう。

 おっと、またどんどん脱線しそうなので、何とか踏ん張る。

e0093608_085231.jpg さて、さて、さて、77年に戻ります。だから、「All 'N All」なのだ。ここでは、アース帝国崩壊の序曲はまだ聞こえてこない。今聴いても、捨て曲なしの好アルバムに間違いない。ただ、前作までと違う要素と言えば、制作前に旅行したブラジルとアルゼンチンでの体験が、プロデューサー・モーリス・ホワイトに少なからぬ刺激を与えたことだ。それによって、かなりはっきりと南米音楽のエッセンスが随所に表れている。

e0093608_6391068.jpg とは言え、EW&Fは初期から、南米音楽の影響があった。例えば、4作目の「Head To Sky」のラストで、エドゥ・ロボの"Zanzibar"を取り上げ、13分の長尺で、ラテン・ジャズ・ロック風に仕立てていた。まぁ、出来としては残念ながら、エドゥ・ロボの最高にクールなオリジナルにはかなわない(Edu Lobo "Cantiga de Longe"、おすすめ!!)が、フィリップ・ベイリーのファルセットによるスキャットをダブリングして、曲のフックに使うというアイデアは、すでに試されていた。

 で、アルバム2曲目の"Fantasy"、キーボードの導入部が何ともドラマチックなムードを漂わせて、いかにも大仰なのだが、続くイントロダクションがやったらカッコイイ。ちょっと出来過ぎじゃないかってぐらい。ところが、歌に入ったら、あら驚き、サンバじゃねぇか!でもって、この哀愁のメロディと、少々説教っぽい歌詞が、アースのキャッチフレーズの「宇宙」「エジプト」「占星術」やら何やらと結びついてくるんですなぁ。よく考えると、ムチャクチャなイメージの展開なんだけど、曲自体は良いのよ。
 特に、日本人はこういう哀愁のムードに弱い。だから、日本でのこの曲の人気はすごい。当時のディスコ・ブームでの象徴的なヒット曲として、この"Fantasy"を上げる人も多いと思う。今回、各会場でのお客さんの反応も、この曲で俄然ヒートアップしてくる感じがよくわかった。
 それから、Tom Tom 84のホーン・アレンジも気が利いていて、実際に演奏していると、サビのボーカルとの絡みで、かなり燃えるのだ。ほんと楽しかった。

e0093608_7543862.jpg そこで、この曲を作ったのは?

 まぁ、モーリス&ヴァーディンのホワイト兄弟はともかく、もう一人クレジットされているエドゥアルド・デル・バリオ(Eduardo del Barrio)って誰?

e0093608_824584.jpg 早速調べてみると、彼はアルゼンチン出身のキーボード奏者で、コスタリカ出身のギタリスト、ホルヘ・ストランツとともに、カルデラ(Caldera)という多国籍ラテン系のフュージョン・バンドを結成し、75年にデビューした。そして、彼らの2枚目「Sky Island」(右上)、3枚目「Time And Chance」(左)をEW&Fのキーボードのラリー・ダンがプロデュースしておったのである。

 何か、いろんなことが出来過ぎみたいに組み合わせっているようにさえ思うけど、やっぱり、こういう人脈を形成するあたりが、モーリス・ホワイトの「やり手」度の高さを物語っているではないか。

 とにかく、この曲に正しいラテンの血を注入したのは、デル・バリオに違いない。また、彼は9曲目の"Runnin'"でも共作者として名を連ねているが、これは、まさにカルデラみたいなラテン・フュージョン。ただ、前述の"Zanzibar"同様、ファルセット・ボイスによるメロディがここでも登場するのが、かろうじてアースか。

 そして、そして、もう一つ。この「All 'N All」において、インタールードに使われている"Brazilian Rhyme"というタイトルの小曲が二つあって、共にミルトン・ナシメントの作とクレジットされていたが、一つは、クラブ系で人気の高い"Beijo"で、これは実はモーリスの作らしく、もう一つの"Ponta de Areia"はまさしくミルトン作の名曲。

e0093608_8364589.jpg ただし、これに関しては、ジャズ系のレコードを聴いていた人なら、すでにおなじみの曲で、74年に発表されたウェイン・ショーターの「Native Dancer」でのオープニング曲だった。このショーターのアルバムも大好きで、よく聴いたっけ。ショーターのソプラノ・サックスとミルトンの「宇宙人」的ボーカルの融合が、まさに、この世のものとは思えないもので、今聴き直しても最高だ。

 だから、アースがこの曲を取り上げたのを聴いて、あまりにも時間が短いのにがっかりした。それに、ここでのアレンジはTom Tom 84ではなく、エウミール・デオダートがやっているというのに、わずか52秒でフェイドアウトなのだ。

e0093608_902332.jpg ところが、1992年に発売された3枚組のベスト盤「The Eternal Dance」に、このデオダート編曲の"Ponta de Areia - Brazilian Rhyme"が2分10秒のバージョンで収録された。これが完全版なのかどうかはわからないが、少しは気持ちも収まった感じになった。ちなみに、この「The Eternal Dance」は面白い未発表テイクがいろいろ入っているのと、各時代の代表曲を年代順にきちっとまとめてあるので、なかなか優秀なベスト盤であり、彼らの歴史をザックリ知る上でも、また入門盤としても最適だった。

 それにしても、当時はアースの新譜を興奮して聴いていただけだったが、今さらながらに、チャールズ・ステップニーの死をきっかけに、EW&Fは音楽の方向性を変えざるを得なかったのだ、ということがよく理解できた。

 次は"Boogie Wonderland"。まだ、続きます。
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by harukko45 | 2011-09-17 10:12 | 音楽の仕事

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