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大橋純子/クラブサーキット2011詳細(6)

詳細(5)からの続き。

 まったく、この詳細シリーズを長々と中断したまま、だらだらしてしまった。一応、言い訳すると、パート6ではチャカ・カーンを中心にしたレポを書くつもりだったので、彼女のこれまでのアルバムを久しぶりに聴きだしたところ、これがまぁ、どツボにはまったというか、すっかり魅了されてしまい、毎日毎日、聴きこんでしまった。正直、チャカ・カーンという人をちょっと過小評価しすぎていたのではないか、と反省しきりの今日この頃といった感じ。つまり、簡単に「プリンセス・オブ・ソウル」「クイーン・オブ・ファンク」と書かれてしまう彼女こそ、実は女性ポップ・ボーカル史上に革命を起こした人なのではないか、とさえ、今は思っているのだった。
 それほど、彼女の後世への影響は大きかった、と確信するにまで至っている。

 とは言え、ルーファスの10数枚、ソロの10数枚を聴き倒すのはなかなかの作業(?)、いや凄い喜び。おまけに、偉大なるプロデューサーであるアリフ・マーディンのこともチェックしはじめると、これはもっともっと大変なことになる。アリサ・フランクリンに始まって、ダニー・ハサウェイ、ラスカルズ、AWB(アヴェレージ・ホワイト・バンド)、ビージーズ、スクリッティ・ポリッティ、でもって、とどめにノラ・ジョーンズと。いやいや、まだまだ....。
 奥深いアメリカ音楽界においても、まさにProdecer's Prodecerと言えるのはクインシー・ジョーンズとアリフ・マーディンだと思っている。これは、単にヒット作の数ではない、商業的な部分とともに、音楽的にパーフェクトな仕事をしているのか、どうか。

 というわけで、いろんな音楽を聞きすぎて、簡単にまとめることができなくなった。だが、それではいっこうに終わらないので、とりとめのない流れになってしまいそうだが、なんとかやってみる。

 m7.Disco Medley_b: What Cha' Gonna Do For Me

大橋純子/クラブサーキット2011詳細(6)_e0093608_21541935.jpg アリフ・マーディン・プロデュースによるチャカ・カーンのアルバムの数々は、チャカ自身のキャリアの中でも、最も成功していた時代の傑作集と言えるだろう。
 特に1978年のファースト・ソロ「Chaka」(左)、80年の「Naughty」(右下)、81年の「What Cha' Gonna Do For Me」(左下)の3つは、「アリフ・マーディン3部作」として高く評価したい。というか、誰が文句つけるってぇの、これらに。
 強いて、どれが好きかと言うと、「What Cha' Gonna Do For Me」の音楽性の高さにはノックアウトだが、当時一番繰り返し聞いていたのは「Chaka」、やっぱり"I'm Every Woman"がいい!(アシュフォード&シンプソンの名作、リチャード・ティーのピアノもカッコイイ。)

大橋純子/クラブサーキット2011詳細(6)_e0093608_21542579.jpg 両側をプラチナ・アルバムにはさまれて、どうしても地味な存在だった「Naughty」の良さは最近になって開眼。アシュフォード&シンプソン作の"Clouds"や、"Nothing's Gonna Take You Away"と"So Naughty"の2曲つなぎにシビレまくっております。全体にソウル度が高いのもいい。後半に行くにしたがって、その濃度はどんどん上がり、"Papillion (aka Hot Butterfly)"で昇天。

大橋純子/クラブサーキット2011詳細(6)_e0093608_16195269.jpg シンセ・ベースが冒頭から大活躍だった3枚目は、音楽的に凝りまくっていて、ジャズやフュージョン・ファンをも巻き込んでの人気作となった。それはビートルズの"We Can Work It Out"やディジー・ガレスピーの"A Night In Tunisia"で特に顕著だったが、やはりこのアルバムでの最高のキラー・チューンはタイトル曲の"What Cha' Gonna Do For Me"に違いない。シングルとしてもR&Bチャート1位をとった大ヒット曲で、"I'm Every Woman"とともに、この時期の彼女を代表する名曲である。

 だが、この曲に含まれる高い音楽性は、単にディスコ/ダンス・ミュージックとして片付けられない。R&B、ファンク、ジャズ、AORらのさまざまな要素が最高に洗練された形で1曲に集約されているのだから。そういう点においては"Ai No Corrida"以上にレベルの高い曲だと思う。

 とにかく、こういうシンプルなリズム・パターン(16ビートを内包する8ビート)でファンキーなグルーヴを出すのって、けっこうむずかしい。それでいて、70年代前半のファンクのように、「汗臭い」だけじゃ駄目で、極めてオシャレで都会的でなくてはカッコ悪い。そこら辺に、ミュージシャン側に知性も求められるわけだ。
 
大橋純子/クラブサーキット2011詳細(6)_e0093608_18585853.jpg この曲を作ったのは、AOR系シンガー・ソングライターとしてデビューしていたネッド・ドヒニーと、AWB(アヴェレージ・ホワイト・バンド)のヘイミッシュ・スチュアート。で、AWBのアルバム「Shine」(80年)に収録されていた。面白いのは、このアルバムのプロデューサーがデイビッド・フォスター。
 それまでのAWBは、アリフ・マーディンのプロデュースで、"Pick Up The Pieces"や"Cut The Cake"のヒットがあるスコットランドのファンク・バンドだったのだが、時代の流れでAOR的方向に変化する必要に迫られ、デイビッド・フォスターに任せたわけ。ところが、フォスターはワンマンに、どんどんアレンジと演奏を進行させたらしく、そういう彼の姿勢にメンバーは反発。しまいにコンテンポラリーな音楽性にも嫌気がさしたとのことで、この後、分裂・解散への道を辿ることになった。(この後、82年にシカゴが同じように、フォスターの力を借りて、80年代の変革に成功した。とは言え、シカゴもその後、彼との作品に対してあまり良い発言していない感じだしなぁ。)

 それじゃこの「Shine」がひどいか、と言うと、そうでもないんですなぁ。特にAORファンの多い日本では、評価と人気が高い。もちろん、初期のAWBのファンクが好きな人(私も)には、かなりショッキングなサウンドなんだけど、今聞くと「これはこれなり」って思える。意外に楽しめるここ数日であります。
 
 というわけで、"What Cha' Gonna Do For Me"のオリジナル・アレンジは、たぶんデイビッド・フォスターとAWB。これをチャカ・バージョンでは、グレッグ・フィリンゲインズとアリフ・マーディンがアレンジをやっていると思われるが、イントロのシンセ・フレーズあたりは残しつつも、いろいろと手を加えて、全体的には(AWBの狙いとは逆に)、より「ファンキー」で、より「ゴージャス」な方向性でまとめられている。仕上がりは圧倒的にチャカの方がカッコイイ。AWB版は、まぁ「軟派」で、あんまり盛り上がらない。特にチャカでは至福の喜びとなる大サビ部分が、全然サッパリなのだ(それが良いとも言う人も多いでしょうな)。

 それにしても、この曲がチャカに合うとよんだ、アリフ・マーディンの耳はすごい。

大橋純子/クラブサーキット2011詳細(6)_e0093608_1983350.jpg ちなみに、もう一人の作者であるネッド・ドヒニーもセルフ・カヴァーしていて、88年の「Life After Romance」で堂々の1曲目を飾っている。で、このバージョン、チャカのハイテンションとは全く違うレイドバック感が、かなり良いのだ。さすが、ビバリーヒルズの大富豪家出身、何とも言えない「ゆるさ」と「余裕」がたまらない。


 おっと、YouTubeで面白いビデオを発見。ネッド・ドヒニーがバンドとともに、この曲をリハしているところが撮影されていて、これがまたサイコーにゆるい!必見です。



 さて、チャカの方にちょっと話を戻すと、この頃のアルバムではドラムスはスティーブ・フェローンでキマリ!(ジュンコさんの「Point Zero」にも参加)なのだが、これは当然、アリフ・マーディン〜AWB人脈。ただし、彼とヘイミッシュ・スチュアートのみ、78年の「Chaka」から重用されているので、彼らだけがお気に入りだったのかも。
 また、この曲のイントロでのドラム・フィルは最高にカッコ良くて、チョーしびれるのだが、AWBバージョンもチャカ・バージョンも全く同じだった。だが、ミックスの違いで、これまたチャカの勝ちである。

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大橋純子/クラブサーキット2011詳細(6)_e0093608_1938784.jpg ついでに、ドラマーつながりで、78年にチャカがいたバンド、ルーファスの「チャカ抜き」アルバム「Numbers」(左)でデビューしたのがジョン・ロビンソン。そして、翌79年には「チャカ入り」アルバム「Masterjam」(右)をリリースするが、そのプロデュースをクインシー・ジョーンズが担当。これにより、ジョン・ロビンソンは彼から「ロスで最高の若手ドラム奏者だ!」との評価を受け、晴れてクインシー一派にも参加するわけですなぁ。
 肝心のルーファスの方はどうだったかというと、個人的にはクインシーとの組み合わせは、セールス的にはともかく、音楽的には失敗だったと思う。

 とは言え、ルーファス自体はすごくカッコいいバンドだった。ロック色の強い73年の1st「Rufus」から、"Tell Me Something Good"を生んだ2nd「Rags to Rufus」、トニー・メイデンとボビー・ワトソンが加わってファンク色が濃くなった「Rufusized」、「Rufus Featuring Chaka Khan」。マデュラ(Madura)のデイビッド・ウォリンスキーも加わって、意欲的な音楽性が発揮され始めた「Ask Rufus」、「Street Player」と、どれも良いのだ。今は、こちらの方を興味深く聴き返すのでありました。と同時に、ジュンコさんが美乃家で目指したものって、彼らのような形に近かったのか?、とも思うのだった。
大橋純子/クラブサーキット2011詳細(6)_e0093608_2328552.jpg大橋純子/クラブサーキット2011詳細(6)_e0093608_23293882.jpg 大橋純子/クラブサーキット2011詳細(6)_e0093608_23304424.jpg大橋純子/クラブサーキット2011詳細(6)_e0093608_2331177.jpg
大橋純子/クラブサーキット2011詳細(6)_e0093608_2331963.jpg大橋純子/クラブサーキット2011詳細(6)_e0093608_23311559.jpg 


大橋純子/クラブサーキット2011詳細(6)_e0093608_206510.jpg大橋純子/クラブサーキット2011詳細(6)_e0093608_2062877.jpg さてさて、偉大なるシンガー、チャカ・カーンは現在でも活躍中、最近は作品がめっきり少なくなったが、2004年のオーケストラをバックにしたスタンダード集「Classikhan」、2007年のファンク大復活の「Funk This」はなかなかの力作だ。特に、「Funk This」はかなりゴキゲンで、ジミヘン、プリンス、ジョニ・ミッチェル、ドゥービー・ブラザーズらのカヴァーが収録され、ルーファスのセルフ・カヴァーもあって(トニー・メイデンとの競演)、実に興味深い。

大橋純子/クラブサーキット2011詳細(6)_e0093608_2354838.jpg おお、そういえば、ここでマイケル・マクドナルドをゲストに"You Belong To Me"をやっているのだが、マイケル・マクドナルドと、この曲を共作したカーリー・サイモンが78年にヒットさせた時、プロデュースしていたのは、またまたアリフ・マーディン先生だった!


 そして、偉大なるプロデューサー、亡きアリフ・マーディン氏の偉業をちょっとだけのぞく意味合いをこめて、これもご覧ください。


 まだ続く、と。
Commented by ヤマケン at 2011-09-09 15:25 x
バンマス、今回は待たされた甲斐あってすごくパワーアップしてますねえ、恐れ入りました。ディスコは迂回してた人間としてはチャカのあたりは今からでも聴いてみたいという気になって、アルバム"What Cha' Gonna Do For Me"をamazonで今更ながらポチっとしてしまいました。さて、次回レビューも待ち遠しいです、よろしくお願いします。
Commented by harukko45 at 2011-09-26 15:49
チャカ・カーンについては、私は今さらながらに、感動しています。最近のガラガラ声の危うい感じもかなり好きですが、やはり全盛期の70年代後半あたりを聴いてみてください。
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by harukko45 | 2011-09-07 20:08 | 音楽の仕事 | Comments(2)

おやじミュージシャン和田春彦の日記でごじゃる


by harukko45