カルロス・クライバー/I Am Lost To The World
2011年 04月 03日
特に、冒頭から随所に挿入される「トリスタン」の指揮ぶり(バイロイトのオケピットでの隠し撮り?)が、もう凄い。また、オーケストラとのリハーサルにおいて、巧みな比喩を使った表現で、楽団員に説明するシーンはすごく面白いし、それでいて実に繊細緻密なこだわりに感動してしまう。だからこそ、いざ本番になった時の、バレエのごとく踊るような華麗な指揮ぶりが、ますます魅力的に思えてくる。それは、彼がまさに音楽の化身となった瞬間であり、この美しさに私はメロメロになってしまう。
もちろん、見た目の良さだけでない、その指揮から生み出される音が、他を圧倒的に引き離す素晴らしさだからこそ、彼の虜になってしまうのだった。
その一方で、日頃の気難しい性格や、極度の神経過敏さ、父への大いなる敬意とコンプレックスについての話や、それが引き起こす数々のトラブルは、まさに天才ならではの伝説と思いつつも、やはり、それによって失った貴重な音楽的財産も大きかったことが悲しく感じられた。
彼は、その才能の凄さに比べて、あまりにも残した作品が少なすぎた。
さて、ドキュメンタリーの後に、1986年の来日時に収録されたバイエルン国立管弦楽団とのベートーヴェンの4番と7番、アンコールでのヨハン・シュトラウス「こうもり」序曲とポルカ「雷鳴と雷光」、1996年のミュンヘンでの同じバイエルン国立管弦楽団とのベートーヴェン「コリオラン序曲」、モーツァルトの33番、ブラームスの4番が続けて放送された。
まずは、86年のは彼の「絶頂期」とも言える時期の演奏だけに、ずっと興奮しっぱなしだった。7番はロックなんか吹っ飛んでしまう。アンコールの2曲も最高。インタビューの中で「オペレッタが一番難しい」と語っていたのが印象的だったが、これほどまでに精微に練られていながら、強烈なインパクトと推進力を失っていない演奏というのはもの凄い。これで、興奮しないなんてあり得ない。人見記念講堂での観衆の熱狂ぶりは当然だった。
そのちょうど10年後のミュンヘンはDVDで持っているのだが、クライバーの生前最後の正規映像であり、彼自身の老いぶりが著しく、その重苦しさから、一度見ただけでしまい込んでしまったもの。だが、昨日は引き続き見てしまった。正直、「コリオラン」と「33番」では、やはりクライバーの老け具合、体調の悪さが気になって、見ているのが辛くなるし、音楽自体にエネルギーが乏しい部分が随所に感じられて残念な気持ちになった。
ところが、ブラームスの4番では、これまで感じた事のない「寂しさ」がひしひしと伝わってきて、彼自身の心とブラームスの音楽が見事に一体化していたことに気づかされた。もう、夢中になって聞き入って(見入って)しまったのだが、そのエンディングのあっけなさまでが、何とも切なく感じられるとは、本当にまいった。
彼が死の直前、その1年前に亡くなった夫人の故郷にある別荘(そこが彼の臨終の場所)に向かう時、その車中では彼がウィーン・フィルと録音したブラームス4番が流されていたという。
その番組は、ノーチェックでした。しかしながら、情報をいただきましたので、来週はしっかりチェックっしてみたいと思います。
カルロス・クライバー・・・懐かしいですね。
私は彼のシンフォニーでの実演は接したことはありませんでしたが、86年のバイエルン国立管とのベートーヴェン4&7番は確か名演として語り草になっている演奏会でしたよね。映像が欲しかったですね。
私は彼の指揮で、スカラ座の「ラ・ボエーム」とウィーン国立歌劇場の「ばらの騎士」「こうもり」(いずれも来日公演ですが)の3本のオペラ上演を観ることができました。
いずれも素晴らしい上演で、いまでも心に残っています。
ただ、彼がオペラを指揮するとどうしても、視線が舞台でなくオーケストラピッドにいってしまうのです。それも、彼の指揮だからこそなのですが。
来週は忘れずに録画予約します。
飲み屋かなんかだったら、クライバー話で盛り上がりそうですね。スカラ座のボエームやウィーンの「ばらの騎士」をご覧になっていたなんてうらやましいです。僕は、海賊版のビデオだけで興奮してますから。来週のNHKも楽しみです。後半のは、すでにDVD販売されているもののようですが、あらためて観るのもいいもんですよね。