ジョン・レノン・スーパーライヴ2010の詳細(3)
2010年 12月 29日
堂珍嘉邦(CHEMISTRY)さんを迎えて。
堂珍さんが選んだのは"Mother"と"Oh My Love"。共にジョンの繊細な感性を反映したソロ初期の作品。いつものケミストリーでのイメージとは違い、今回は自らピアノとアコギを弾きながらのパフォーマンスということで、ファンの方々にも新鮮だったのでは。また、自らのバンドとともに2曲のアレンジ・デモを作ってくれ、それを元に我々も演奏することになった。
"Mother"では、前半を完全に弾き語りにし、3回目のAからバンドが加わる構成。変拍子をともなう「 トラウマを叫ぶ」サビの後、堂珍さんによるジョンへ語りかける歌詞がついた新たなAメロが付け加えられた。
誰が歌っても、強度の緊張感を呼び起こす曲で、演奏もシンプルに徹するので、ますますテンションが高まる。ただ、私は何らかのカラーリングを施したかったので、今回は深いリバーブを効かせたピアノ・サウンドで、堂珍さんのピアノにダブるような感じで演奏した。これで、弾き語りの部分とバンドが加わった部分とで、シーン・チェンジする印象を作れたと思う。
2曲目で、堂珍さんはアコギに持ち替え、小品ながら極めて美しい"Oh My Love"を。どことなく東洋風のメロディが印象的だが、これはヨーコさんが68年に書いた曲をベースにしているからだろう。
オリジナル・テイクではジョージのギター・イントロに、ジョンのピアノがからむ。このテイクでのジョージの演奏は素晴らしいし、クラウス・フォアマンのベースも良い。そして、サビ以降に登場するニッキー・ホプキンスによるもう一台のピアノの、繊細で装飾的なフレーズが、曲全体に気品を与えている。
今回は、金澤くんがジョンで、私がニッキーのパートをやることにした。ニッキーのパートでは、"Mother"同様に少しエフェクトしたサウンドにして、別の空間で弾いている感じにしてみた。
この曲でも、堂珍さんは独特のイメージを持っていて、極めて遅いテンポを指定してきた。実際、演奏するにはなかなかタフな領域まで遅くなったが、それにより、前曲からの緊張感をキープしつつ、静謐で凛とした世界観で2曲をまとめることが出来たように感じたのだった。
続いて、曽我部恵一さんを迎えて。
曽我部さんも「Plastic Ono Band」から、渋いながらもまさに隠れた名作と言える"Isolation"を選んできた。さすが、通っぽい選曲だ。"Mother"や"Working Class Hero"らに通じる内容で、演奏もストイックと言いたいほどのシンプルさ。とにかく、ジョンのボーカルとその詞こそが全てであるかのようだ。だが、これはなかなかハマる。そして、精神的に「ヤラれる」。まさに、魂を抜かれる感じでプレイさせられてる気分になる。
元々、最小限度の音数(ほとんどがジョン、クラウス、リンゴの3人)で、もうすでにちゃんと成り立っている作品ばかりなので、ライブだからといって遊び半分で余計なことをすると、絶対にきまらない。だからといって、毎回同じプレイをしていたのでは、つまらない。で、何かやりたいのなら、かなりの覚悟を持って、ビシッとやり切らなくてはいけない。
それにしても、ジョンのファースト・アルバム「Plastic Ono Band」はこの世で唯一無二な孤高の音楽だろう。果たして今の時代、ここにあるジョンの赤裸々な叫び、絶望の思いを、聴き手はちゃんと感じ取れているだろうか。私たちの耳はつくづく衰えた。
幸いなのは、ジョンの曲作りのうまさのおかげで、このアルバムは永遠の名盤として残り続けているということ。
曽我部さんの2曲目はプラスティック・オノ・バンドとしてのセカンド・シングルであった"Cold Turkey"。麻薬の「禁断症状」のスラングであることから、ドラッグ・ソングとの烙印を押されてしまった。
確かに、歌詞は禁断症状の苦しみがずっと綴られているし、曲の後半ではその「うめき」ともいえる声が延々と入っているのだが、音楽的には、文句なくカッコいいロック・チューンであることは否定できない。
ジョンとジョージ、エリック・クラプトンが弾くハードなギター・リフ、ブルージーなコード・ワーク、そして、サビのキマリ具合もいい。「Cold turkey has got me on the run」のハズ・ガッ・ミ〜の部分、主メロの上につくハモがメジャー7の音に行くのが実にスリリング。
さて、本番においては、"Isolation"を贅沢なプレリュードにして、そのまま"Cold Turkey"に乱入することにした。だが、これが正解だったかどうかはわからない。
たぶん、お客さんの多くがあまりこの辺の曲を知らなかったのだろう、"Isolation"の段階でかなりキョトンとした反応だった。突然のブレイクでのエンディングにも虚をつかれた感じで、シーンと静まり返った。そしてなだれ込んだ"Cold Turkey"はハードでカオスな演奏なので、ますますあっけにとられた気分だったかもしれない。
そういった意味では、サービス精神なしのパフォーマンスではあったが、まさに「あの時代」の空気と曽我部さんの「凄み」を知ってもらえたのではないかと思う。私はなりふり構わず、かなり興奮してしまった。
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