ウィーンにて、その5古き良きもの

 かつてはStaatsoperのチケットを事前に入手するには、ファックスか手紙をBundestheaterkasse(国立劇場連盟前売所)に送るしかなかったし、席の値段の範囲を最低これくらいから最高これくらいという具合に指定できるだけだった。その返事も郵送で送られてきて、出発間際までわからないこともあった。
 それに、実際の座席指定はあちらまかせで、同じ値段でも天井桟敷席(Galerie)をのぞんでも、ボックス席(Logen)を割り当てられたりしてしまった。だから、やはり実際に現地に行ってから直接買うべきだと思い、3回目の訪問あたりから、ウィーンに着いたらすぐにKasseに行くことにした。

 その当時のBundestheaterkasse(スペル書くだけでも重苦しい)は、まるで役所か銀行のようなところで、妙に威圧感があった。とにかく、そのいくつかある窓口でガラス越しに係員とああだこうだやってチケットを手に入れるわけだ。こちらがあやしい英語でいろいろと言ってると、あきれた顔で首を振って、「これしかない。一番高い平土間(Parket)席か、天井桟敷の一番端(舞台はほとんど見えない!)のどちらか!」、もしくは「すべて売り切れ、当日キャンセルがあるかもしれないから、その時にまた来い。」てな感じだった。とっても感じ悪くて苦々しい気分になったこともあったが、ちょっとした対決をしてるようで私としては結構楽しんでいた。何回かやっているうちに、うまく会話が通じたり買い方がうまくなったりしていくのも楽しかった。

 しかし最近ではインターネットのおかげで、日本にいながら1ヶ月前から座席指定できるようになった。ランク1と2の高い席はシーズン開始からすぐに予約できるのだ。席がとれたら、そのレシートをプリントしてKasseに持って行くだけになった。もう、係の人とは挨拶してレシートをチケットと交換して終わり。簡単になった。そして今回、今までのKasseが新しくなり、あの窓口のガラスもなくなった。とってもフレンドリーでスタイリッシュな雰囲気になった。ハイテクを駆使してサービスも良くなったわけである。でもなぁ、なんかちょっと寂しい。そう簡単には入れてやらないよ、って感じがなつかしい。
 
 ヨーロッパ一番の品揃えの楽譜店がDoblingerだ。ここもすごかったよ。とにかく1876年創業の老舗中の老舗ですからね。1991年に行った時、ふらっと入って楽譜をペラペラとめくっていたら、店員がすっ飛んできて、「だめ!」と怒られてしまった。ここでは、勝手に品物にさわることは許されない。ちゃんと自分の欲しいものを告げて、店員がそれを持ってきてくれて初めてさわってよろしいのだ。だから、「何が欲しいのか?」と聞かれて、適当に「モーツァルトの“フィガロの結婚”の総譜。」なんて言っちゃうから、分厚いのが出てきちゃって。で、まあ持ってても損はないし、なんて思って買っちゃたりしたわけで。

 ドブリンガーにはCD売り場もあって、ほとんどクラシック専門だった。入ると数人の店員さんたちにキっとにらまれた。まずはちゃんと「Gruss Gott.」とご挨拶するのは当然であり、その後自分の欲しいCDをやはり告げるのが流儀なのだ。最初は日本のCDショップのつもりで見るだけで出てきてしまったが、その間ずっと太ったオバさんの店員ににらまれっぱなしだった(そういう顔なだけで、本当はにらんでたわけじゃなかったかも)。そこで、次はちゃんと「ウィーンのシュランメラン音楽(ホイリゲやワイン・ケラーなどで歌われる大衆歌謡?)とチロル音楽のCDを探しています。」というと、そのオバさんが「Yah!」と言って、奥から2枚のCDを出してきて、「これがイイ!」である。それぞれオススメのを1枚ずつしか出さないわけ。で、良いと力強く断定するのだからおもしろい。もちろん買って帰った。

 それから3回目に行った時は、ちょうど教会でオルガンを聴いた直後だったので、そのオバさんがいるのを確認して店に入って行き、彼女に「オルガンのCDが欲しいのですが。」と言うと、今度は何枚かあるコーナーに案内してくれた。そこで、「あなたのオススメは?」と聞いたら、2枚ほど選んでくれた。そのうちカール・リヒターのを買ったのだった。

 久々にドブリンガーに行ってみた。去年来た時大改装していたからだ。もう、あのオバさんはいなかった。それに、譜面は自由にさわってよくなった。普通の本屋と同じようにお客があちらこちらで楽譜をさがしていた。もちろんCDも。とっても買いやすくなったし、楽になった。でも、ちょっと寂しい。これも時の流れなのかな。楽になって、こちらとしてはずっと良いのに、敷居が高いのも懐かしいなんて贅沢な注文だね。
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by harukko45 | 2005-01-07 23:00 | 旅行

おやじミュージシャン和田春彦の日記でごじゃる
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