ジョン・レノン・スーパーライヴ2009の詳細(3)
2009年 12月 29日
Bonnie Pinkさんを迎えて
毎回、洗練されたポップ感覚で、いいアクセントをつけてくれるBonnieさんは、今年も期待通りの「ホッコリ」を生み出してくれた。最優秀選曲賞があったら、間違いなく彼女に差し上げたい。
1曲目の"Nobody Told Me"はジョンの死後、1984年にリリースされた「Milk And Honey」に収録されており、そのファースト・シングルとしてビルボード5位を記録している。
ジョンは死の直前まで、ニューアルバムのためのレコーディングをつづけており、81年には「Double Fantasy」の続編として発表する予定だったようだ。だが、それはかなわなかった。よって死後、その時のセッション・テイクにヨーコさんの曲を加えてまとめられたのが「Milk And Honey」となる。
というわけだから、ジョンの楽曲に関しては残念ながら、すべて未完成品だ。それと、60/70年代のジョンのイメージを第一に考える人々にとっては、この80年代の整いすぎたように思えるサウンド・プロダクションが当時はなかなか受け入れがたいものであったことも事実。
なので、このアルバムを好きと表明する人はそれほど多くないかもしれない。
だが、もう一度彼が残した最後の「新作」を聞き返してもらいたい。前作「Double Fantasy」がジョンの作品の中で、もっともマイルドで洗練された「大人な」サウンドだったのに対し、このアルバムでは再び、尖った感性で不良をきどり、やんちゃで皮肉っぽいジョンが随所に垣間みられるではないか。特に、"I'm Stepping Out""I Don't Wanna Face It"、そして今回Bonnieさんが取り上げた"Nobody Told Me"は曲としてもっと高く評価していい。
さて、とは言え、この"Nobody..."はやはり未完成であることは間違いなく、そのままコピーしてやってもいろいろと不満の残るものだった。なので、リハではバンドのみで一度合わせた後に、ざっくりとアレンジを変えることにした。全体のポップな感覚は残しつつも、サウンド面では80年代のキラキラしたものでなく、ピアノを中心にした70年代風のシンガー・ソングライターっぽい雰囲気でやってみた。
そこにBonnieさんがボーカルで加わった途端、まさにピタっとハマって、それまで「何だかなぁ」と悩んでいたことがきれいさっぱり消え去った。
今では、この曲が大好きだ。Bonnieさんはさりげなく新しい扉を我々に開いてくれた感じだった。
MCなしで続けてやった2曲目は、ビートルズ初期のモンスター・ヒット・チューン"I Want To Hold Your Hand"。
この曲がなくては、彼らのアメリカ制覇はなかったかもしれない。とにかく、ワシントンD.Cでのライブ映像における、この曲が始まった時のオーディエンスの尋常じゃない興奮した反応は、まさに革命が起きたかのようなインパクトを感じるし、そこでのビートルズのかっこよさったら!。私は何度見てもこの瞬間、身震いしてしまう。
とにかくだ、ビートルズにとって、その後の彼らを大きく決定づける重要曲であることに間違いないし、文句のつけようのない傑作である。
ちなみに日本でのビートルズのデビューがこの曲。アメリカでの熱狂ぶりが影響し、急遽"Please Please Me"から変更され、第1弾シングルになったという。
で、何がカッコイイかといえば、まずイントロのギターリフのアフタクトで、拍を取り損ねる人多数。「Oh Yeah I'll(オーイェーアー)」と始まるジョン&ポールのダブル・リードが最高。ユニゾンのピッタリぐあいが素晴らしいし、ところどころでハモに転じるセンスがタマラン。
Aメロの段階で、突然シャウトする「I wanna hold your hand!」にしびれない人は人生をやり直した方がいい。
そして、ラテン風ともスタンダード風ともつかない「あま〜い」Bメロは、実はすっごく切ない。だが、彼らはそれをすぐに強烈に「I can't hide」で吹き飛ばす。ボブ・ディランが「I get high」と聞き間違えて、「ドラッグ・ソングだ」と勘違いしたのもわかるほど、興奮するポイントだ。
また、全体のグルーヴも、この時期のビートルズ特有の「そんなに早くないテンポだが、スピード感がある」「常に前進性を失わずに、ゆったりとした8ビートを刻む」「ハネたノリと、ハネないノリの絶妙な使い分け」があって、最高に面白い。もちろん、当時の彼らは考えてこのようにプレイしていたわけでなく、ごく自然にこうなったに違いないし、ビートの歴史的変化という点でも興味深い。
ロックのビートは時代が過ぎるにつれ、じょじょに簡単になり、60年代から70年代初期に多く見られたのようなミクスチャー的な感覚はどんどん失われて行ったのである。
ただし我々は、キーをB♭に上げたので、微妙なニュアンスは変わった。ビートルズのような攻撃性は少し薄れたものの、Bonnieさんの声を生かしてキュンとした感じが強調されたと思う。
例によって重要なコーラスでもオリジナル通りの積みではいけないので、押葉・土屋・和田の3人組でジョン&ポールのパートをひっくり返したり、分けたりして、頑張ってみた。これも楽しかった。
そして、エンディングではドラムの締めに合わせて、全員で礼をすることに。これは、演奏よりも絶対に外せないこととして、Bonnieさんも含めたバンドの最重要課題としてのぞんだ。
本番では、私などちょっと楽しくなりすぎて、危なっかしかったけど、きちんとお辞儀には間に合ったと思うよ。
詳細(4)へ